【アデコ:岩嶋 宏幸】データ・ドリブン・マーケティングとSimilarWebで企業の競争/共創力を高める。
「競合企業との競争と、パートナー企業との共創によってビジネスは成り立っている。」
世界最大の人材サービス企業アデコグループをコミュニケーション、ブランディング、マーケティング、そしてデジタルと幅広い領域を統括しているマーケティング&イノベーション本部 本部長 岩嶋 宏幸氏。(以下、敬称略)
同氏は前職のコニカミノルタ、そしてアデコと名だたる企業で長年サイト分析を続けてきたWeb解析のエキスパート。デジタルマーケティングにおいてサイト解析ツールSimilarWebが分析の中核になっていると言う。
今回は、SimilarWebから取得できる独自データを合理的に競合比較および分析できる戦略フレームワークに落とし込んで組み立てる、デジタルマーケティング戦略をご紹介します。
目次
サイト改修後の課題
“競争”に視点を当てていない
アデコグループは全世界に70万人の派遣社員を抱える、世界最大の人材サービス企業です。
岩嶋氏は1986年に小西六写真工業(現コニカミノルタ)入社後、事業企画、広報ブランド、メディア等の部署で活躍した後に、2005年デジタルマーケティング事業を立ち上げた。
2017年からアデコに入社し、マーケティング、ブランディング、デジタル戦略全てを統括するマーケティング&イノベーション本部本部長を担っている。
岩嶋「私は20年に渡って Web関連の仕事をこなしてきました。Web分析に関する様々なツールを使い、SimilarWebに関しては7年以上使っています。」
Web分析のエキスパートである同氏は、Web解析の手法を知る前にまずはビジネスの成立ちを知ることが重要と言う。
岩嶋「競合企業との競争と、パートナー企業との共創によってビジネスは成り立っている。私が事業開発に所属していた時はこの2点の観点からデータ分析を行い、事業を大きくすることに取り組んでいた。
しかし、Webになると少し違う。
多くの企業では、3~5年のスパンでサイトの改修を行うと思う。改修前は競合のサイトを緻密に分析するが、実際に作ったあと、競合がいまどのような状態なのかという”競争”の視点に手が回っていない。
結果、競争ではなく、独りよがりでWebを回している状況に落ちている。
企業のWebを活用してデジタルマーケティングを行うわけだから、これは重要な課題である。」
同氏はサイト改修期間のみ競合調査を行い、それ以外の期間は競合調査を行っていない企業が多いと言う。
では、どのように調査を行っていけばよいのか?
同氏は定常的に5C分析を行っている。そして戦略フレームワークを活用し、データ・ドリブンにデジタルマーケティングを行うことで競争力と共創力を強化。これらを行うことで多くの企業が抱えているサイト改修後の課題を解決できると言う。
定常的に5C分析を行うべし
岩嶋「課題解決のためには、常に5C分析で行うことが重要となる。これが中々できていない。」
またデジタルマーケターは、最低限以下の項目を分析する必要があると言う。
- SEM(サーチエンジンマーケティング)分析
- AD & アフィリエイト周りの分析
- SNS分析
- E-mail分析
- モバイル分析
- 自社および他社のユーザー分析
- 競合他社が使用しているテクノロジー
- インフォメーションアーキテクチャ分析
- Webサイトのヒストリー分析
これらを分析するには何らかの外部ツールが必要となってくる。同氏は様々なものを扱ってきたが、SimilarWebがその中核を担ってきたと言う。
岩嶋「これまで色んなツールを使ってきた。その中で分析の中核を担っていたのがSimilarWebです。
2011年頃は首をかしげるデータもあったが、今ではモバイルのデータも含めた全体的な改善が見られる。かなり有益なツールとなった。」
外部ツール使用で気をつけること4ヵ条
外部ツールは様々なデータを簡単に取得できるため非常に便利である。
しかし、同氏は外部ツールを使う際に気をつけなければならないポイントがあると言う。
岩嶋「外部ツールは気をつけて使用しないと、かなり無駄な費用の出費となる。」
そこで同氏が考える、外部ツールを使用する際に気をつけなければいけないのが以下の4ヵ条だ。
岩嶋「データはデータでしかない。データを如何に戦略というマクロな観点に落とし込むかが重要。その上で、実際に実行できる戦略を実装していくスキームを立てる。これを行わないと単にデータをみるだけで、抜本的な戦略には繋がらない。」
戦略フレームワークを使ったデータ・ドリブン・マーケティング
同氏は戦略を立てる際、戦略フレームワークに基づいてプランニングを行っている。
岩嶋「日本では戦略フレームワークに落として Web施策を考えることは少ない。しかし、欧米だとメジャーな考え方である。」
戦略フレームワーク:SOSTAC
同氏が実際に使っている戦略フレームワークは以下のSOSTACである。
※本稿ではSOSTACについて深堀しないため、詳細を知りたい方は以下の記事を参照ください。
SOSTAC® marketing planning model guide (記事内は英語表記です)
SOSTAC戦略フレームワークは、1990年代にPR Smith社が作成したフレームワークである。
1つの事象に対して、現状分析、目的設定、戦略策定、戦術設計、実行施策、管理・測定の6つの工程を行い、事象を細分化する。これを行うことで、合理的に戦略に落とし込むことができる。
6つの工程のうち、最初と最後の現状分析と管理・測定のレイヤーでSimilarWebが大きく貢献できると言う。
そしてこれを元に、戦略フレームワークRACEにデータを落とし込む。
戦略フレームワーク:RACE
RACEはREACH / ACT / CONVERT / ENGAGEの4つのレイヤーから成立ち、顧客への認知から獲得、その後のナーチャリングまで行うための戦略フレームワークである。
レイヤーごとに調査目的があり、また取得すべきデータも異なる。
また、各レイヤーのデータは全てSimilarWebから取得可能。つまり、Similarwebと戦略フレームワークRACEの2つがあれば、競合とのサイト比較分析が合理的かつ効率的に行うことができる。
REACH:見込み顧客に対してどのようにアプローチするか
ACT:見込み顧客をどのように需要喚起し、購買行動を起こしていくか
CONVERT:顧客の転換をどのように図っていくか
ENGAGE:どのようにして顧客の絆を深めていくか
データを戦略に落とす
岩嶋「データをただの現象にしてはいけません。データを俯瞰的に見て戦略を立てなければならない。
SimilarWebのダッシュボード機能を用いると競合との比較データが俯瞰して分析することができる。」
岩嶋「さらにこのデータをわかりやすいように図にまとめ、どこに自社の強みがあって、どこに弱みがあるのかを明確化する。」
上記は同氏の実際の資料であるが、これを見るとREACHに関しては”キーワードクエリ”と”ソーシャルトラフィック”の部分で競合他社に劣っている。
これをみることで、どこに投資をしなければいけないのか一目で判断できる。
岩嶋「当社としては、最初にどのようなリーチの目標を掲げるのか、その目標に対して現状はどうなのか、競合他社はリーチの観点で現状はどのようになっていて、強みはどこにあるのかを見ます。」
最後にREACH / ACT / CONVERT / ENGAGE、これら全てを並べて分析し、自社および競合他社において全体的にどこが弱みでどこが強みなのかをはっきりさせる。
岩嶋「当社の場合、Engageはメールマーケティングに力を入れているので、他社よりも強みを持っている。
一方、ReachとConvertでは弱みがある。Convertでは以前数値が良かったが、直近では他社の方がスコアが上がってきている。
これはつまり、見込み顧客から潜在顧客へ持ち込むレイヤーにおいて競合が強みを持っている可能性を示している。
これら4つの指標を見ることでどの部分に投資すべきか、マクロ的観点から見てわかる。」
データをマーケティングに活かす
SimilarWebエキスパート達が考える”ヒト”を動かすためのマーケティング
同氏が繰り返し唱えたのは「データはデータでしかない」ということ。より高い視点から様々なデータを組み合わせていくことが大事であることを強く唱えた。
岩嶋「海外も含めた日本企業の競合において、データ・ドリブン・マーケティングを行うことで競合に対する競争力と、組織全体の共創力が向上させていく。」
データ・ドリブン・マーケティングの目的は2つの競争/共創力を向上させ、事業を拡大させることである。これは結果的に組織力の強化にもつながる。
ヤマハ株式会社の濱崎氏も、導き出したデータは最終的に”ヒト”を動かすきっかけになると言う。これも結果的に組織力が強化され、事業拡大につながる。
濱崎氏「データが大きいか少ないか、上がっているか下がっているかの大まかな傾向が重要であり、この圧倒的な情報量はヒトを動かすきっかけになります。」
また電通アイソバー高橋氏も、データの目的をはっきりさせた上で社員に啓蒙することが重要であると述べている。
高橋氏「データの使用目的、どのようにKPIやKGIを置くかがポイント。また、これを社員に啓蒙することが重要となってきます。」
まとめ:データはデータでしかない
これまでヤマハ株式会社、電通・電通グループ、アデコグループと、日本を代表する企業の秀でたマーケター達がSimilarWebを使ってどのようにデジタルマーケティング戦略を練っているかを紹介してきた。
手法は違えど、どのマーケター達も口を揃えて唱えるのは以下だ。
“データはデータでしかなく、それをどの観点から観察し、どのように使うかが重要”
本稿はSimilarWebを軸とした話である。しかし、本稿で取り上げた日本有数のマーケター達のデータに対する向き合い方や考え方は、SimilarWebユーザー以外のマーケターの方々にも参考になると考える。
日本を牽引するマーケター達のノウハウが、みなさんのデジタルマーケティング促進のきっかけとなることを願うばかりである。
MarTechLab編集部
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