顧客満足度と経営指標を同時に改善|「スピードが遅い」という顧客の声に向き合った、プロ向け専門ECのUI/UX改善舞台裏
ECサイトにおけるウェブパフォーマンスの向上は、単なる技術的な修正に留まらず、顧客体験(UX)の質を決定づける、極めて重要な経営戦略です。ページの読み込み速度のわずかな遅延が、ユーザーの離脱率に直結し、結果として売上に深刻な影響を及ぼすため、これは経営層がコミットすべき最優先課題の一つと言えます。
今回、私たちは、プロ向け専門ECサイトを運営する大手企業様のデジタルマーケティングチーム責任者様(以降:O様)に、その戦略的な取り組みの全貌を伺いました。
特に焦点を当てたのは、ECサイトの表示速度改善という、一見地味ながらも本質的な課題です。この企業様は、単に計測指標を改善するだけでなく、ビジネス成果(コンバージョン率や売上)への貢献を明確に見据えた戦略的な意思決定を行い、結果として劇的な成果を達成されました。
このインタビューでは、なぜウェブパフォーマンスの改善が最優先事項とされたのか、技術的な壁をどのように乗り越え、そして組織全体を巻き込む意思決定の舞台裏でどのような戦略が練られたのかについて、詳細にお話しいただきました。その取り組みは、単なるECサイト運営のノウハウを超え、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代における、顧客中心のビジネス戦略の成功事例として、多くの企業にとって貴重な示唆を与えるものです。
目次
B2B ECが抱える宿命的課題:「インフラ」としての速度ボトルネック

当社の主要事業であるプロ向けECサイトは、一般消費者向けのECとは異なる役割を担っています。
「お客様にとって当社は単なるECサイトではなく、日々の業務を支える仕入れ先であり、事業の『インフラ』そのものです。お客様は忙しい業務の合間に急いで備品を注文されます。その際、サイトの動作が遅ければ、それは仕事が止まることと同義であり、お客様の負担になります。」
この特殊なビジネス背景から、「スピードが遅い」という声は、単なる不満ではなく、「ビジネスの妨げになっている」という深刻な課題として捉えられていました。
O様は、この課題を解決すべく、ECサイトのUI/UX改善を通じた売上最大化をミッションとしていましたが、長年の課題として「機能拡充」と「速度維持」のジレンマが存在していました。
デジタルシフトの裏側:高機能化がもたらす速度低下のジレンマ

ECサイトの成長戦略として、「コンテンツの拡充」や「パーソナライゼーションの深化」といった施策を推進するほど、サイトはリッチ化し、結果として速度低下とサーバー負荷増大を招くという「成長のパラドックス」に陥っていました。
この課題をより難しくしていたのが、プロ向けECならではの高度なパーソナライゼーションです。
「お客様ごとに商品の販売有無や価格、ポイント付与率などをはじめ様々な要素が異なるため、従来のCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)ではHTMLのキャッシュが極めて困難でした。自社で改善を試みても、パーソナライズされた部分の速度改善には限界があり、本質的な解決には至りませんでした。」
機能のリッチ化を止めることなく、いかにして高速化を実現するか。この命題に対し、同社は「予測プリロード」を搭載したウェブ高速化ソリューション「Speed Kit」の導入を検討しました。
選定の決め手:「売上貢献度」を可視化したPoC

技術的な懸念点や、他プロジェクトとの兼ね合いから、導入へのハードルは決して低くありませんでした。しかし、意思決定を加速させたのは、PoC(実証実験)で示された「結果の示し方」でした。
「PoCの結果が、単なる技術的な『速度スコア』ではなく、『CVRや売上向上にどう繋がるか』というビジネス指標を含んだレポートとして提示されたことが決定打でした。技術的な投資を『これだけ売上に貢献できる投資』として捉え直すことができ、経営層への説明が非常にスムーズに進みました。」
技術的な成果だけでなく、コンバージョン率(CVR)や推定売上リフトといった経営指標に換算された効果が示されたことで、「導入しないのはもったいない」という判断に至ったのです。
導入後には、予期せぬサイト障害が発生した際にも、ベンダー側が迅速かつ透明性の高い形で調査に協力し、ツールの無関係性を証明。このプロセスを通じて、技術的な信頼関係がより強固なものとなりました。
導入効果:LCP 60%改善と経営指標へのインパクト
PoC期間中にABテストを実施した結果、「Speed Kit」は劇的なパフォーマンス改善と、明確なビジネスインパクトをもたらしました。
1. LCP(Largest Contentful Paint)の劇的改善
サイト全体におけるLCPの中央値が30%高速化という顕著な成果を達成いたしました。これは、単なる一部ページの改善に留まらず、ウェブサイト全体でユーザー体験(UX)の向上を実現したことを示しています。
特に、LCPはGoogleの提唱するCore Web Vitalsの中でも最重要指標の一つであり、この大幅な改善は、サイトの読み込み体感速度が劇的に向上したことを裏付けています。

次に、ユーザーの購入意思決定に直結する重要な接点である商品ページにおいて、パフォーマンスの大幅な改善が見られました。
具体的には、LCP中央値が940ミリ秒短縮し、これにより体感速度が劇的に向上、60%の高速化を達成しました。

さらに、カテゴリーページにおけるパフォーマンス改善は、LCP中央値が971ミリ秒という大幅な短縮を達成し、これは以前と比較して60%もの高速化に相当します。

これらの高速化は、ユーザーがページにアクセスした際に最も重要なコンテンツが瞬時に表示されることを意味し、離脱率の低下とコンバージョン率の向上に直結する重要な成果です。詳細には、画像最適化、クリティカルCSSの適用、レンダリングブロックの解消といった複数の技術的改善が複合的に寄与しています。
2. ビジネス指標への貢献
この速度改善は、直接的に売上向上に繋がると試算されています。
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指標 |
予測されるインパクト |
根拠 |
| コンバージョン率 (CVR) | 4.1%向上 (サイト全体) |
速度影響チャートによる高速ユーザーと低速ユーザーのCVR比較分析 |
| SEOトラフィック | 約11.25%増加 (長期的) |
LCP 30%改善に基づき、Web VitalsとSEOの関係性から予測 |
今後の展望:「速度」を基盤に描く次なるDX戦略
「Speed Kit」の導入は、サイトの「速さ」という長年の制約を取り払い、本来注力すべきUI/UXの深化への道を切り開きました。
「速度のボトルネックが解消されたことで、今後はよりパーソナライズされたコンテンツ提供や、お客様の『仕入れ』を効率化するための検索性(サイト内検索)の改善など、次の成長戦略に集中できます。AIや生成AIといった新技術の活用も視野に入れ、ECサイトを次のレベルへと引き上げたいと考えています。」
O様は、コロナ禍以降、特に競争が激化するB2B/プロ向けECの戦場において、改めてUXの重要性を強調しました。
「B2Bであっても、価格や品揃えだけでなく、ユーザビリティとUXこそがお客様を勝ち取る戦場になっています。お客様のインフラとして、最高の顧客体験を提供し続けることが、我々の揺るぎない使命です。」
今回の事例は、「スピード」という本質的な課題に真正面から向き合い、技術投資を明確な「売上貢献」として定義したことで、顧客満足度の向上と経営指標の改善を同時に実現できることを証明しています。
この記事から学べるポイント
ウェブ高速化を戦略的な経営課題として捉え、顧客満足度とビジネス成果を両立させた今回の事例から、すべてのEC事業者にとって重要な以下のポイントが学べます。
WEBサイトの表示速度はB2B/プロ向けECの「インフラ」である
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- B2B/プロ向けECにおける表示速度は、単なる快適性・利便性の問題ではなく「業務の継続性」であり、顧客の離脱や不満に直結する深刻な課題となっている
- お客様の「忙しい業務の合間」という利用シーンを深く理解し、ECサイトを「インフラ」として機能させることが、事業継続の生命線となる
意思決定には「ビジネス指標」への換算が必須
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- 技術的なスコア(PageSpeed Scoreなど)だけでは、経営層を動かすことは困難
- PoCの段階で、速度改善が「CVR向上」「推定売上リフト」「SEOトラフィック増加」といった具体的なビジネス指標にどう貢献するかをシミュレーションすることが、大型投資の決定打となる
「機能強化」と「速度」は両立できる
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- 機能拡充によるサイトの「重さ」は宿命的な課題であるが、予測プリロードなど、高度なパーソナライゼーション下でも効果を発揮する技術を選定することで、リッチ化と高速化のジレンマは解消可能である
- 速度の制約を取り払うことが、本来注力すべき「パーソナライゼーションの深化」や「新たなUX施策」への「基盤づくり」となる。
ギャプライズ担当者の声
山田(セールス担当):
業界の中でも、「最速スピード」で卸売の一大プラットフォームまで駆け上がった企業様に、Speed Kitをお選びいただき心よりうれしく思います!企業規模が拡大している中でも、スピード感を持った意思決定と現場サイドの徹底した顧客目線でのサイト作りにとても感心しました。貴社のやりたい!を実現できるよう、ギャプライズとして引き続きサポートできたらと思います。
吉田(カスタマーサクセス担当):
B2B/プロ向けECということで、「忙しい業務の合間」というユーザーの利用シーンを深く理解し、その上でサイトの表示速度やUI/UXが業務に直結する、まさに「インフラ」として捉えられていることが素晴らしいと感じました!その中でSpeed kitをご導入をご判断いただけたことを本当に嬉しく思います。今回の速度改善に留まらず、お客様の課題に対して多角的な視点からサポートしていきたいと思います。
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。

