「バリュー・チェーン分析」の4つのステップ!事業のムダをなくして圧倒的な成長スピードを実現するフレームワーク
2024年現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が全産業に及び、ビジネス環境は急速に変化し続けています。AI、ブロックチェーン、IoTなどの新技術が台頭し、業界の境界線が曖昧になりつつあります。このような状況下で、企業が競争力を維持し、成長を続けるためには、自社の強みを正確に把握し、効率的な戦略を立てることが不可欠です。
この点に関して、2015年にファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長の柳井正氏が競合企業について聞かれた際、以下のように答えています。
業態が同じとは限らない。消費者の財布は1つ。Nestleかもしれないし、Coca-Cola、P&G、Disneyかもしれない
このコメントは、現代のビジネス環境において、競合が必ずしも同じ業界内に限定されないことを鋭く指摘しています。消費者の選択肢が多様化し、異なる業界の企業が同じ「顧客の時間とお金」を奪い合う状況が生まれているのです。
このような複雑な競争環境において、企業が自社の強みを最大限に活かし、効果的な戦略を立てるためには、「バリュー・チェーン分析」が非常に重要なツールとなります。バリュー・チェーン分析は、企業が自社の活動を体系的に理解し、業界の枠を超えた競争においても優位性を構築するための強力な手法です。
目次
バリュー・チェーン分析の目的と重要性
バリュー・チェーン分析は、企業の各活動がどのように価値を生み出しているかを詳細に分析するフレームワークです。柳井氏のコメントが示すような複雑な競争環境において、この分析を行う主な目的は以下の通りです。
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- 自社の強みと弱みの把握: 各活動の価値創造プロセスを理解し、業界を超えた競争優位性を特定します。
- 効率化とコスト削減: 無駄な工程や重複した活動を特定し、最適化を図ります。
- 差別化戦略の立案: 異業種も含めた競合他社と比較して、独自の価値提供方法を見出します。
- イノベーションの機会発見: 新たな価値創造の可能性を探り、業界の枠を超えた展開の機会を見出します。
- リソース配分の最適化: 限られた経営資源を最も効果的に活用する方法を見出し、急速に変化する市場に対応します。
2024年のビジネス環境では、デジタル技術の進化やサステナビリティへの要求が高まる中、バリュー・チェーン分析はこれまで以上に重要性を増しています。この分析を通じて、企業は急速に変化する市場ニーズに対応し、業界の垣根を越えた持続可能な競争優位性を構築することができます。
バリュー・チェーンの基本概念
バリュー・チェーン(価値連鎖)とは、「事業を主活動と支援活動に分類し、どの工程で付加価値(バリュー)を出しているかを分析するためのフレームワーク」です。
近年では、デジタル技術の発展により、従来の線形のバリュー・チェーンモデルから、より複雑で相互接続されたエコシステムモデルへの移行が見られます。しかし、基本的な考え方は変わっていません。
主活動と支援活動
- 主活動:製品やサービスが顧客に到達するまでの流れと直接関係する活動 例)購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス
- 支援活動:主活動を支える活動 例)調達活動、技術開発、人事、財務、会計
2024年では、これらの活動にAIやロボティクスの活用、サステナビリティへの取り組み、データ分析なども含まれるようになっています。
バリュー・チェーン分析の4つのステップ
ステップ1「自社バリューチェーンの把握」
最初に、自社のバリューチェーンを明確に把握します。2024年の事業環境では、従来の業界の枠を超えた活動が増えているため、より柔軟な視点が必要です。
例えば、テクノロジー企業が金融サービスに参入したり(フィンテック)、自動車メーカーがモビリティサービスを展開したりするなど、業界の境界線が曖昧になっています。
ステップ2「各レイヤーのコスト把握」
各活動(レイヤー)のコストを把握します。2024年では、クラウドベースの会計システムやAI支援の財務分析ツールを活用することで、より精密なコスト分析が可能になっています。
例えば、以下のような表を作成し、各活動のコストを可視化します
活動 | 担当部署 | 年間コスト(単位:百万円) |
購買 | 購買部 | 300 |
製造 | A工場 | 1,500 |
B工場 | 700 | |
C工場 | 800 | |
販売 | 本社営業部 | 900 |
海外営業部 | 500 |
一つの部署で複数の活動を行っている際は活動時の比率で考えましょう。また、複数の部署で一つの活動を行っている場合は複数部署のコストを合算して記載するようにしてください。
ステップ3「バリューチェーンの強み/弱み分析」
自社と競合の強みと弱みを分析します。この段階では、ビッグデータ分析やAIを活用した競合分析ツールを利用することで、より包括的な洞察を得ることができます。
例えば、卸売業での強み・弱み分析では以下のような項目が考えられます。
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- 強み:
- 独自の物流ネットワーク
- 高度な在庫管理システム
- 豊富な商品ラインナップ
- 弱み:
- オンライン販売チャネルの未整備
- デジタルマーケティングスキルの不足
- サステナビリティへの取り組みの遅れ
- 強み:
ステップ4「バリューチェーンをVRIOで分析」
VRIO(ヴェリオ)の要素で強みを分析する
最後にVRIO(ヴェリオ)による経営資源の競争優位性分析を行います。
VRIOとは Value(価値)、Rareness(希少性) 、Imitability(模倣可能性)、
Organization(組織)の頭文字で、経営資源を分析する際の4つの要素を示しています。
2024年の文脈では、以下の点に特に注意を払う必要があります。
Value(価値) | 顧客にとっての価値だけでなく、社会的価値や環境価値も考慮 |
Rareness(希少性) | データや独自のアルゴリズムなど、デジタル資産の希少性も評価 |
Imitability(模倣可能性) | 技術の進歩により模倣のスピードが上がっていることを考慮 |
Organization(組織) | リモートワークやグローバル人材の活用など、新しい組織形態に対応できているか |
例えば、アパレル業でのVRIO分析は以下のようになります。
活動 | V | R | I | O | 競争優位性 |
デザイン | ◎ | ◎ | ◯ | ◎ | 持続的 |
生産 | ◯ | △ | × | ◯ | 一時的 |
物流 | ◎ | ◯ | △ | ◎ | 一時的 |
マーケティング | ◎ | ◎ | ◯ | ◯ | 持続的 |
バリュー・チェーン分析の実際の事例
以下に、バリュー・チェーン分析を効果的に活用している企業の実際の事例を紹介します。これらの事例は、各企業の公開情報に基づいています。
スターバックスコーヒー
スターバックスは、バリュー・チェーン全体を通じて顧客体験の向上と持続可能性に焦点を当てています。
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- 原材料調達: 倫理的かつ持続可能なコーヒー豆の調達(C.A.F.E.プラクティス)
- 店舗設計: 「サードプレイス」としての快適な空間提供
- 製品開発: 季節限定商品や地域特性を活かした商品開発
- 顧客サービス: バリスタによる高品質なサービス提供
- デジタル戦略: モバイルオーダーやリワードプログラムの導入
これらの取り組みにより、スターバックスは単なるコーヒーショップ以上の価値を顧客に提供しています。
IKEA
IKEAは、バリュー・チェーン分析を通じて、低コストと高品質を両立させる戦略を実現しています。
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- 製品設計: フラットパック方式による輸送・保管コストの削減
- 調達: グローバルな調達ネットワークによるコスト最適化
- 製造: 大量生産によるスケールメリットの活用
- 販売: 大型店舗での体験型ショッピングと自己組立式家具
- 持続可能性: 再生可能エネルギーの利用や持続可能な原材料調達
IKEAのバリュー・チェーンは、コスト効率と顧客満足度の両方を高めることに成功しています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、「トヨタ生産方式」を中心としたバリュー・チェーン最適化で知られています。
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- 研究開発: 次世代技術(電気自動車、自動運転など)への投資
- 生産: ジャストインタイム生産方式による効率化
- 品質管理: カイゼン活動による継続的な品質向上
- サプライチェーン: サプライヤーとの密接な協力関係
- アフターサービス: 充実した保証とサービスネットワーク
さらに、トヨタは「モビリティカンパニー」への転換を目指し、MaaS(Mobility as a Service)などの新しい分野にも取り組んでいます。
これらの事例は、バリュー・チェーン分析が企業の競争力強化にどのように寄与しているかを示しています。各企業は自社の強みを活かしながら、継続的にバリュー・チェーンの最適化を図っています。
まとめ
バリュー・チェーン分析は、2024年の複雑で変化の激しいビジネス環境において、企業の競争力を維持・強化するための重要なツールです。冒頭で紹介した柳井氏のコメントが示すように、現代の競争は業界の枠を超えて行われています。このような環境下で、バリュー・チェーン分析を通じて、企業は以下の利点を得ることができます。
- 自社の強みと弱みを明確に理解し、業界を超えた競争優位性を強化できる
- 効率化とコスト削減の機会を特定し、収益性を向上させられる
- 顧客に対する独自の価値提案を見出し、異業種との競争も視野に入れた差別化戦略を立案できる
- 新たな技術やトレンドを自社のバリュー・チェーンに統合する機会を発見し、イノベーションを促進できる
- 限られた経営資源を最適に配分し、急速に変化する市場に対応した効果的な事業運営を実現できる
変化の激しい2024年のビジネス環境で持続可能な競争優位を築くために、ぜひあなたの事業や組織でもこの手法を試してみてください。バリュー・チェーン分析は、あなたの企業が次のレベルへと成長し、業界の枠を超えた競争においても成功するための強力なツールとなるはずです。
参考文献
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。