1年でCPA15分の1に!ブランド認知を広め続けるTENGAのマーケティング戦略
株式会社TENGA様は、男性向けマスターベーションアイテムやカップル向けアイテム「TENGA」をはじめとするセクシャル・ウェルネスのサポートを世界69の国と地域に向けて展開されています。
自社ECの認知向上のため、ディスプレイ広告を運用して1年間でCPAを15分の1にすることに成功しました。
今回は、株式会社TENGAのECサイトを担当されている矢部様、吉良様、また同社のデジタルマーケティングを支援されているKeepAlive株式会社西田様に、TENGAのマーケティング戦略や自社ECサイトを強化する理由、ディスプレイ広告運用についてお伺いしました。
目次
1.ブランドビジョンとマーケティング戦略
「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」
―はじめに、どのような人々に向けたブランドであるのか、会社のビジョンについて教えてください。
株式会社TENGA
営業本部 国内EC部 部長
矢部 隆宏様
(矢部様)
男性向けマスターベーションアイテムやカップル向けアイテムを展開する「TENGA」をはじめ、女性向けセルフプレジャーアイテムを展開する「iroha」、医療・福祉・教育の視点から性の悩みや問題の無い社会を目指す、グループ会社の「TENGAヘルスケア」が一体となり、世界69の国と地域に向けて、正しさと楽しさを両立しながら人々のセクシャル・ウェルネスのサポートを目指しています。
ビジョンとして、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」と掲げていますが、この中の “誰もが” というのは、若い男性だけではなくお年寄りや女性、世界中の方まで様々な人々を指しています。だからこそ性別や年齢、国や文化の違いも超えた、今を生きる全ての人に向けたブランドでありたいと思っています。
そして、“性”という人間の根源的欲求をおとしめることなく、誰もがポジティブな気持ちで自由に楽しめる世界にしていきたいです。
―貴社の商品を実際に利用するのはどのようなお客様が多いのでしょうか?
(矢部様)
男性、女性ともに30代が最も多いです。男性は、2番目に20代、40代の方が同等の割合、それに対し女性は2番目に20代、その次に40代という割合となっています。
世界69の国と地域で展開、異なる“性”に対する考え方
―マーケティング戦略において、国別にどのような違いはありますか?もし、日本ならではの施策やポイントなどあれば教えてください。
(矢部様)
“性”に対する考え方は、国によって大きく異なります。
日本では「性=いやらしいもの」というタブー感が強い一方で、男性のマスターベーションについては話しやすい傾向にあります。海外では中国、アメリカ、韓国、ドイツ、台湾に拠点を置き、それぞれの地域の考え方や風土に合わせた取り組みを行っています。
例えば、アメリカでは「ダサイ男がするものだ」という意識から、男性がマスターベーションすることをタブー視し、一方で日本とは異なり女性の方が積極的に性やマスターベーションの話をする傾向があります。そこでアメリカでは、男性ではなくまず女性に向けての情報発信を強化し、メディア露出やプロモーションイベントを実現することで認知度を高めていきました。
また中国では近年、たとえ価格が高くても品質や耐久性など、製品の価格が高価な理由を理解し購入する、プロダクト重視な消費者が増えています。それにともなってTENGAの品質やアイデアを理解し、購入してくださるお客様が増えたため、中国の消費者の目に適うように更に開発に力を入れていきたいと考えています。
「性=いやらしいもの」ではなく「性欲は誰もが持つ自然な欲求である」という前提のもと、過度にいやらしさを強調するのではなく、日常生活に馴染むアイテムとして作られたTENGAがうまくフィットし、多くの方にご愛顧いただいているのではないかと考えています。
そのため、戦略ありきというよりもビジョンを体現したプロダクトこそが最大の戦略になります。
こういった性に関する捉え方に共感していただくことが増え、アダルトショップだけではなくドラッグストアやヴィレッジヴァンガードなどに販路を拡大していっています。
2019年初の常設店をオープン
昨年には阪急メンズ東京に初の常設店「TENGA STORE TOKYO」をオープンすることとなり、現在国内では約2万店舗で取り扱っていただいております。
(写真)TENGA STORE TOKYO
取り扱い店舗の拡大や著名人が愛用してくださっていることもあり、TENGAの認知度は2019年時点で男性85.7%、女性63.4%です。しかし、製品に込められたビジョンや取り組み、豊富な製品ラインナップについてはあまり知られていないのが現状です。
そこで広報や宣伝の領域では、TENGAの面白い部分を活かしつつも、性に関する硬軟様々な情報発信や、メディア取材では真面目な側面を見せることによって、多面的な魅力をより多くの方に知って頂けるよう取り組んでいます。
一方で、女性向け商品「iroha」については状況が異なります。女性のセルフプレジャー(マスターベーション)に関する偏見は男性よりも強くあり、「女性がセルフプレジャーをするのは恥ずかしいこと」「女性の性は受け身であるべき」と女性自身が思っているケースが多いです。
こちらもトークイベントやメディア取材で「性欲は誰もが持つ自然な欲求である」ということを丁寧に発信し続けることで、製品を快く手に取っていただくための土壌を作り、バラエティショップなど地道に販路を拡大してきました。
2018年から大阪の大丸梅田店でポップアップストアを開催し、予想以上のお客様が来店くださったことで、ブランド発足当初よりも多くの方に知って頂き、利用者も増えました。昨年からは同店で初の常設店となる「iroha STORE 大丸梅田店」をオープンし、さらに多くの方に製品を届けられるように取り組んでいます。
―プロモーションにおいて表現や媒体の規制がある反面、面白い企画を立てていらっしゃると思います。社内で企画される際、どのような視点を大事にされていらっしゃいますか?
(矢部様)
製品の特性からCM放映や広告掲載などが難しいです。見た人が面白い!と、自発的に話題に出したくなる、メディアが取り上げたくなるような企画を考案できるよう心がけています。
TENGAで意識しているのは、面白おかしさを意識しつつも、製品や会社として伝えたいメッセージがきちんと伝わるように、企画内に盛り込んでいくことです。面白おかしいだけが先行してしまうと、話題性は確保できても「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンが伝わらず成功とは言えません。
そうしたことから、TENGAの持つ「面白さ」「ポップさ」と、性と真正面から向き合う真面目さの2つの視点を大事にしています。
女性のセルフプレジャーは偏見が強いため、irohaはそうしたハードルを取り除きながら製品を訴求していく必要があります。まずは女性が自身の性について受け入れられる土台作りのため、「女性の性」に関するイベント企画、自社サイトやSNSでの情報発信や、女性向けイベントなどを行っております。
2.国内ECサイトにおけるミッションや業務内容
株式会社TENGA
営業本部 物流企画部
吉良 うたみ様
―ミッションと業務内容について教えてください。
(矢部様)
インターネットを通してTENGAを知っていただくことがミッションです。
ECサイト全般の責任者なので、結果としてはECを通して購入頂いた数字を追っています。
(吉良様)
私は、ECサイト内のコンテンツ制作や企画の担当をしています。TENGAがどういうものなのか、商品によってどのような違いがあるのかなどをECサイトで知って頂き、良いものであると判断してもらえるよう、日々取り組んでいます。
―「TENGAビギナーセット」を用意されていますが、どのような位置づけで作られたのでしょうか?
(矢部様)
多くの方にTENGAを知って頂き、さらに多くの人に使ってもらう、「まず1回TENGAを使って欲しい」という思いからTENGAを使用する第一歩として作りました。20~30代をメインターゲットとしており、第一歩ということで価格を下げるなど買うにあたってのお客様の障壁をなくせるようにしています。
3.TENGAが自社ECサイトを強化する理由
―弊社との取り組みを始める以前にはどのような課題があったのでしょうか?
(矢部さん)
自社ECサイトの認知がなかったことです。メディア記事などは出していてTENGAのブランドや商品認知は上がってきていましたが、自社ECサイトの認知も上げていきたいと考えていました。
―自社ECサイトを強化しようと考えたのはなぜですか?
(矢部さん)
TENGAがECサイトを運営する上で大切にしているのは、「安心・信頼・たのしさ」です。
そうした中で、自社ECサイトを強化するポイントは3点です。
・安心して商品を使って頂けるサービスの拡充
・商品の魅力をどこよりも豊富に伝えるページ作り
・たのしくお買い物していただくコンテンツ作り
自社ECサイトで商品展開をすると他のモールなどと比べ、値下げセールなど価格上のメリットを頻繁にご提供することは難しいです。そうした中でも、「TENGAファンの方」「ECサイト限定商品を求めている方」「メーカーで購入することに安心を感じている方」などが自社ECサイトから商品を購入してくださります。
TENGAのECサイトでは、自社にしかないTENGAらしい企画や、商品を購入することへの楽しさを感じていただきたいです。
そして、メーカーであれば、商品の魅力をどこよりも伝えられます。
例えば、新商品を発売したら、社内のスタッフによる使用感レビューを自社ECサイトに載せることができ、どこよりも早く、詳しい情報を提供することが可能です。サイト上の詳細な情報は、お客様の安心感にも繋がると考えております。そのため、特に新商品であれば、最初に自社ECサイトを見にきてほしいです。
また、体に触れる商品を取り扱っているため、使用に不安を感じる方もいらっしゃいます。そのようなお客様の不安を払拭するために、コールセンターのフリーダイヤルなども用意しています。
4.ブランドを広め続けるためにユーザーとの距離感を重要視する
―西田様から見たTENGA様の印象を教えてください。
KeepAlive株式会社
代表取締役
西田 陽介様
TENGAデジタルマーケティングを支援
(西田様)
TENGA様のデジタルマーケティングの支援をして、10年以上のお付き合いになります。一緒に施策を進めていく中で、お客様との距離感を適切に保つことを大切にされていると強く感じています。
3年前に実施したDM施策は凄まじい効果が出ました。DMを送るたびに売上が伸び、毎回購入してくださる方もいて、DMを届くのを心待ちにしているお客様が沢山いたことに驚きました。そのため、私は「もっと頻繁にDMを送ればいいのではないか」と提案したことがあります。
それに対し、矢部様から「お客様との距離間が大事。乱発やリターゲティングもいけない。商材が商材だからお客様と距離が近すぎてはいけなくて、情報を届けるタイミングを考える必要がある」と教えて頂きました。
(矢部様)
あの時の効果はすごかったです。当時「社内の各部署ではDMは開封されないよ」とネガティブな声も出ていました。
(西田様)
しかし、矢部様は一度全て試してみるべきというスタンスでした。DMのみでなく、ローソンのLoppiでのTENGAギフトコードの取り扱いなども矢部様が進められました。TENGA様はオンライン・オフライン問わずに地道に取り組み、ブランドを広め続けています。
5.1年間のディスプレイ広告運用でCPAが15分の1に
―ディスプレイ広告運用をやろうと思ったきっかけや、今回運用を弊社にお任せ頂いた決め手を教えてください。
(西田様)
弊社で利用している市場分析ツールSimilarWebのデータを見ると、「TENGAを使ったことはないが使ってみたい・興味はある」という人が多いことが判明。以前からTENGAの商品力や認知率が高いことは理解していましたが、まだまだ開拓の余地があり、情報を心待ちにしている方が多いのだと感じました。
お客様との距離感やTENGAらしさを意識すると、単に情報をばらまくのではなく、情報を求めるお客様に一つ一つ丁寧に手渡しする方法が良いと考えました。しかし、ある程度の母数も必要です。
そうした中で手法は問わず施策を考えていた際に、ギャプライズ様からきちんと広告を届けたい人に届ける手段があると、ディスプレイ広告運用について聞き、依頼を決めました。
(矢部様)
ギャプライズ様が創業期に手掛けられた、中華街の肉まん屋さんのお話が印象的でした。肉まんの無料配布と同時にQRコードでユーザー獲得していく施策を、実際に店舗に立って行っていました。そうしたデータだけではない、実際のユーザーを見にいく姿勢や店舗の利益に対する責任感、取り組み自体に信頼できるなと感じ、広告運用をお願いしました。
―実際に取り組みの成果としては、認知だけではなくビギナーセット購入につながっています。当初の期待と比べて、いかがでしょうか?
(西田様)
TENGA様、ギャプライズ岡安様と一緒に広告運用を進めていき、この1年でCPAが15分の1と大きな効果を出すことができています。
(弊社ギャプライズ:岡安)
当初は認知を目的としていたため、インプレッションとクリックの状況をみたDSP運用をしていました。その後、私が担当になり、TENGA様の持つブランド力を損なわずに、いかに自社サイトの認知を広め購入して頂けるかを考えました。
バナーやページのクリエイティブ改善はTENGA様、KeepAlive様と進め、運用面では広告を受ける人にとってストレスにならない出し方を徹底しています。運用で大切にしているのは、広告数値は広告の受けた人の行動の結果だということを忘れないことです。ポジティブな気持ちでサイトに訪問してもらうためには、広告の出し方が重要となります。
DSPの配信枠では誤クリックも生じやすいです。そのため、TENGA様のブランドを損なわないよう、あえてCTRが高く、コンバージョンに繋がらない配信枠は停止するようにしました。それだけでもコンバージョン数値は大きく改善しました。
それに加えてクリエイティブ、運用改善を進めた結果、同予算でインプレッションを以前より4倍増やし、CPAを15分の1まで下げることができました。また、自社ECサイトの存在を知らせ、気になったタイミングでサイトに訪問し、TENGA様を理解した上で購入して頂ける流れの構築にも繋げられました。
まだまだ改善の余地はあるので、今後も更に改善を進めていきたいと考えています。
(矢部様)
今回のディスプレイ広告運用では認知向上を目標においていて、インプレッションやCTRを重要視していました。広告を通して多くの方にTENGAを知ってもらい、そこからクリックしてサイトを見てもらう。「ちらっと見た」というインプレッション数も指標としては大切です。
しかし、商品を販売する立場からすると、やはり最大の目的はコンバージョン、商品を購入です。
コンバージョンを目標におきたいけれど、今回は認知に重きをおいたので、誤クリックでもクリックがおきれば改善に繋がっているとも言えます。しかし、岡安様は弊社の目線で、認知だけでなくコンバージョンまでを考えた広告運用をしてくださったことがとても嬉しかったです。
(西田様)
なるべくサイトに滞在してもらいたい、また様々なコンテンツも見てもらいたいです。誤クリックで認知を上げるのは、TENGAらしくはないと私も思います。
6.今後の展望
―今後取り組みたいことやギャプライズへの期待についてお聞かせください。
(矢部様)
今後も引き続き認知向上と、多くのお客様にTENGAをお届けできるよう取り組んでまいります。
認知を上げる、ということに関しては終わりがないかもしれません。インターネットを通して多くの方にTENGAを知って頂けるよう、形にとらわれずに取り組みたいと考えています。
それだけではなく、その先にあるLP改善なども今後進めていきたいです。少し前にLP改修もしましたが、ずっと同じ形でいいという訳ではありません。LPを通して、TENGAファンの獲得を実現していきたいと考えています。
わがままな要望かもしれませんが、KeepAlive様やギャプライズ様と一緒に解決していけると嬉しいです。
―矢部様、吉良様、西田様ありがとうございました!
TENGA様の広告運用の施策詳細はこちらからダウンロード頂けます。
阿多 佑梨花
2018年秋にギャプライズに入社。前職で2年半、総合通販業界にてアパレルの店舗運営に従事。ギャプライズ入社後、インサイドセールスの経験を経て、現在は自社マーケティングを担当。