三菱地所が実践したWebパーソナライズ戦略~1年半のサイト改善の取り組み~
三菱地所株式会社様では、弊社のサイト改善コンサルティングサービスおよび、顧客体験分析ツールContentsquareやABテストツールOptimizelyをご利用いただいております。
本記事は、2020年8月27日に開催したオンラインセミナー「三菱地所が実践したWebパーソナライズ戦略の全て」の講演内容をまとめたものです。
新規会員獲得、パーソナライズ、Webサイト利用促進の3つのフェーズに分け取り組んだ約1年半のサイト改善の全容と、
・UI改善で新規会員登録率1.5倍
・パーソナライズ施策によりフォームへの遷移率約30%アップ
など具体的な改善事例をご紹介いたします。
登壇者紹介
三菱地所株式会社
住宅業務企画部 統括 池田 至氏
2001年に三菱地所レジデンスに入社。
2015年より会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」の運営を担当。
2018年グループ内の会員組織統合により、60万世帯と拡大した顧客にオンライン・オフラインを活用した施策を展開中。
目次
1.グループを繋ぐ「三菱地所のレジデンスクラブ」
不動産業界の市場動向
少子高齢化などの影響による国内世帯数の減少に伴い、新設住宅着工戸数(※1)は今後減少していく見通しです。その一方で、既存住宅流通やリフォーム市場は今後拡大することが見込まれています。
参照)野村総合研究所、国土交通省
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/0609_1
https://www.mlit.go.jp/common/001123467.pdf
この状況下で三菱地所グループの課題となっているのが、需要の減少が見込まれる新築マンション分譲が収益の大部分となっていることです。
三菱地所グループの住宅事業は、大きく4つ(※以下、個社)に分社化されています。
新築マンション分譲の収益に依存せずに、グループ全体として収益増加させるためには、ストックビジネス領域(※2)を拡大することが重要です。
(※1)新設住宅着工戸数:着工された新設住宅の件数
(※2)ストックビジネス:顧客を囲い込み、持続的にサービスを提供しながら長期的に収入を上げて行こうという考え方
「三菱地所のレジデンスクラブ」とは
上記課題を解決するためには、ライフスタイルの変化に応じたサービスを提供できる仕組みを作っていく必要があります。
そのため、今まで各社ばらばらに管理されていた会員情報を統合した「三菱地所のレジデンスクラブ」を2018年に発足しました。
三菱地所のレジデンスクラブでは、Webサイトやアプリを通じて、お客様のニーズやライフステージに合わせた情報提供や潜在ニーズの掘り起こしをして、個社へ送客を行っています。
「住宅購入を検討している方(見込顧客)」「既に住宅を購入された方(既存顧客)」を会員としており、ニーズに合わせた情報を提供。
また「既に住宅を購入された方」にはロイヤリティ向上のための特典やイベントを提供し、将来的にグループの商材購入を再度検討して頂けるよう、取り組んでいます。
グループの収益を上げるためには、個社送客が要となります。
そのため、サイト改善を3つのフェーズに分けて実施。最初のフェーズとして、送客のパフォーマンスを上げるために新規会員獲得を目標とした、土台作りに取り組みました。
2.フェーズ1:土台作り(新規会員獲得数を増やす)
会員登録ページのUI改善で新規会員登録率1.5倍
会員獲得増加の施策を考える上で、まず会員登録をするユーザーを下記の2種類に分けました。
1.元々会員登録をするつもりで訪問してきたユーザー
2.会員登録するか決めてない状態で訪問してきたユーザー
三菱地所のレジデンスクラブはサービス特性上、各社の情報を統合する前にすでに会員だったユーザーや、ショールームでコンタクトを取っている方などが多数訪問されます。そのため、「元々会員登録をするつもりで訪問してきたユーザー」が多く、この方々に迷いなく登録してもらうことがより重要です。
この仮説をもってアクセス解析を見ると、多くのユーザーが会員登録ページまでは迷いなく進むにもかかわらず、その後完了までいけずに止まっていることがわかりました。
そこでさらにその原因を追求するためにヒートマップを確認すると、下記のような課題が見えてきました。
課題:会員登録画面でのクリックが分散していた
⇒ユーザーがどこを触っていいのかわかっていない
▼会員登録ページとそのヒートマップ
ヒートマップから浮き彫りになった課題の理由をユーザー動画で確認すると、何度登録をしようとしても登録できずに、離脱するユーザーが多いことが判明。
当時、会員登録経路は複数あり、ページ上には登録するための分岐点が多数ありました。それが要因となって登録に迷い、結果として離脱してしまうユーザーが多いのだとわかりました。
▼実際のユーザー動画
そこで、ユーザーが迷わないように1つ目のボタン以降はアコーディオン(※3)で閉じ、クリックに応じて更にボタンが表示されるUIに変更。結果、新規会員登録率は1.5倍に改善されました。
(※3)アコーディオン:ナビゲーションメニューの一種。項目を選択すると隠れている詳細を展開表示させることができる。
▼実際のテスト内容
これらのテストから、まずは新規会員獲得の機会損失となる穴を埋める、「動くかわからない(会員登録するつもりがない)ユーザー」を動かすよりも、「動こうと思っている(会員登録する意思のある)ユーザー」が迷わず、確実に動けるようにすることが重要だとわかりました。
3.フェーズ2:パーソナライズ(適切なタイミングで適切な情報をユーザーに提供)
パーソナライズとは?
「パーソナライズ」とは、全ての人に同じ情報を提供するのではなく、ユーザー個人の属性や行動履歴に合わせて、最適化することです。
三菱地所グループの会員属性は、住宅購入を検討されている方(見込顧客)、既に住宅を購入された方(既存顧客)に分けられ、商材は、新築マンション・戸建て・中古の購入、売却、リフォームなど多岐にわたります。
個社に送客するためにはお客様のニーズに合わせて、新築マンションを買いたい方には新築マンションの情報を、家を売りたい人には家を売るための情報というように、適切な情報を適切なタイミングで出す必要があります。
▼会員属性とニーズ
細かく狙いすぎる最適化は効果が出にくい
三菱地所のレジデンスクラブでは、物件を買いたい、売りたい、貸したいなどのお客様の要望合わせた関連記事を掲載しています。
そういった記事を閲覧したユーザーに向け、ニーズに合うような誘導導線をおけば、送客数が増えるのではないか?と考え、導線を設置しました。
<記事に追加した誘導導線>
・買いたい方向け→新築マンションの新着情報
・売りたい方向け→無料売却査定はこちら
・貸したい方向け→無料賃貸相談はこちら
しかし、なかなか誘導導線はクリックされず、クリックをされたとしてもPV数が少ないページだったために、大きな改善効果が見られませんでした。
▼特定の記事を閲覧したユーザーに誘導導線を設置
改善効果のあったバナーをテキストリンクに変更し、ページ遷移率20%アップ
細かく狙いすぎた最適化が上手くいかなかったことを踏まえ、PV数が多く、シンプルな施策を実施することに方針を変更。
過去にマンション購入をされて10年以上たったお客様にセグメントし、「物件を売りたい」という訴求で、お客様の所有するマンション名と築年数に加え、バナーを設置しました。
<追加バナー内容>
・所有するマンションの相場をAIで自動表示
・所有するマンション周辺の売り出し事例を確認する
その結果、売却相場の査定フォームへの遷移率は9.15%と、約10人に1人はクリックされるような成果に結びつきました。
▼パーソナライズ施策(マンション購入者に向けバナーを設置)
また、成功施策を応用し、バナーからシンプルなテキストリンクで「このマンションの相場を知る」に変更。
画像の方がわかりやすいのではないかと考えていたものの、Webサイトにはバナーが数多く出ており、ユーザーにとって見にくいのではないかという案も出たため、行った施策でした。
その結果、遷移率は29.5%と大幅な改善に繋がりました。
▼マンション購入から10年以上のお客様という条件でパーソナライズしたページの全体像
▼パーソナライズ施策(マンション購入者に向けバナーからテキストリンクに変更)
4.フェーズ3:アクティブ化(Webサイトの利用促進)
フェーズ1の新規会員獲得、フェーズ2のパーソナライズの成果が出てきました。そのため、現在は住宅のポータルサイトとして継続的に訪問するユーザーを増やすための、アクティブ化に取り組んでいます。
将来的に再度三菱地所グループで商材を購入してもらうためには、ロイヤリティ向上を図り、検討時期以外にもユーザーと接点を持つことが大切です。
現在、アクティブ化で行っている施策は3つあります。
・オンボーディング:会員登録時のサービス理解を深める(会員特典を掲示するなど)
・コンテンツ:イベントやオンライン相談などでWebサイトに再訪問する理由を作る
・アテンション:会報誌やアプリでWebサイトに訪れないユーザーに気づいてもらう
上記の施策により、定期的にお客様と接点を持ち、検討すべきタイミングで三菱地所グループを思い出して頂けるように取り組んでいます。
5.今後の展望
新規会員獲得、パーソナライズ、Webサイト利用促進の3つのフェーズに分け取り組んできました。
各フェーズにおけるポイントは次の通りです。
■フェーズ1:土台作り
「動くかわからないユーザー」を動かすよりも、「動こうと思っている人」が迷わないように、確実に動けることにすることのほうが重要
■フェーズ2:パーソナライズ
・小さく個別最適化しても気づかれないしインパクトもない
・人通りの多いメインストリートで実施することが重要
・施策はシンプルであるほど受け入れられる
・うまくいったところを深堀りする
■フェーズ3:アクティブ化(利用促進)
・オンボーディング
・コンテンツ
・アテンション
今後は、溜まってきた顧客情報を活用して、販促顧客動向分析を実施し、住宅グループ全体としての送客プラットフォームを目指します。
具体的には、商材の検討時だけでなく、非検討時の顧客情報も蓄積していくことで、顧客ニーズの変化を掴み、検討の度合いに応じたパーソナライズを実施していきたいです。
くわえて、機械学習を活用した顧客動向の予測や、商業やホテルなどの生活サービス事業への送客も見据えています。
6.まとめ
本記事では、パーソナライズ事例を中心に三菱地所様の1年半のサイト改善の取り組みと事例をご紹介いたしました。
サイト改善で成果に繋げるためには、
・まずは穴を埋め、土台を作る(会員登録する意思のあるユーザーを漏らさないようにする)
・ユーザーニーズに合ったセグメントで導線を用意する(細かくしすぎるとインパクトが出にくい)
・施策はできる限りシンプルにする
・上手くいったものに関しては深堀する
という点が重要です。
三菱地所様にご利用頂いているツールに興味を持たれた方はぜひ下記よりお問合せください。
▼顧客体験分析ツールContentsquareのお問合せはこちらから
▼ABテストツールOptimizelyのお問合わせはこちらから
阿多 佑梨花
2018年秋にギャプライズに入社。前職で2年半、総合通販業界にてアパレルの店舗運営に従事。ギャプライズ入社後、インサイドセールスの経験を経て、現在は自社マーケティングを担当。