GEOの効果を「金額」で可視化|AI検索の引用率を10倍にしたRootly事例と、日本企業への示唆
「GEO(生成AI最適化)に取り組むべきなのは分かる。でも、それでいくら儲かるのか」
この問いに、社内の誰も答えられない。だから予算がつかない——2026年のマーケティング現場で、最も多く聞かれる詰まり方です。
AI検索対策ツールを提供するAthenaHQが公開したRootly社の事例は、この問いに対して珍しく金額ベースで答えています。AI検索における引用率が3%から30%へ10倍に伸び、その効果を広告換算で年間126,076ドル(増分)と算出した、という内容です。
本記事では、この事例の中身を日本の読者向けに整理したうえで、「なぜ金額換算ができたのか」「その数字を自社にどう当てはめるべきか」を解説します。あわせて、日本市場のAI検索データを並べ、この事例をそのまま真似すべきではない理由にも触れます。
目次
この記事の要点
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- GEOの成果は「AIの回答内での露出量 × そのプロンプトの広告換算単価」で金額化できる
- Rootly社が伸ばしたのは指名検索ではなく、非指名の比較検討プロンプトでの露出(言及率7.5%→18.3%)
- ただし広告換算値は売上ではない。AI経由の流入量がまだ小さい日本市場では、「来た人を取りこぼさない」CX改善とセットで初めて金額が乗る
Rootly社が直面した課題:「search to click」から「ask to decide」へ
Rootly社の課題は、SEOで勝っていたにもかかわらず、AIの回答の中で自社がどう扱われているか分からなかったことです。検索順位は把握できても、AIが生成する比較・推奨の中で自社が登場するかどうかは、営業現場の肌感覚でしか掴めていませんでした。
Rootly社は、LinkedIn、NVIDIA、Replit、Elastic、Canva、Grammarlyなどを顧客に持つAIネイティブのインシデント管理プラットフォームです。同社のマーケティング責任者、アダム・フランク氏はこう表現しています。
買い手の情報収集は『検索してクリックする』から『尋ねて決める』へ移っている
見込み客は検索結果ページを開かないまま、AIに「インシデント管理ツールのおすすめは?」と尋ね、返ってきた3〜5社から候補を絞り込みます。この過程はアクセス解析にほとんど痕跡を残しません。商談で「AIに聞いたら御社が出てきた」という断片的な話を聞くだけで、体系的に測る手段がない。いわゆる「ダークファネル」です。起きていることは分かるが、数えられない。だから改善もできない。


AthenaHQで実行した5ステップの運用モデル
Rootly社が実行した施策自体に、特別な発明はありません。「測る→直す→また測る」を週次で回しただけです。特徴的なのは、測る対象を最初から売上に紐づく質問文に絞り込んだ点にあります。
同社がAthenaHQ上で構築した運用モデルは、次の5ステップです。
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- 競合ベースラインの取得 — 主要なAIエンジンの回答の中で、競合各社がどう登場しているかを一覧化します。自社の順位ではなく「回答という限られた枠のどこを誰が占めているか」を把握するのが出発点です。
- 売上に紐づくプロンプトの設計 — 追跡対象に選んだのは、実際の買い手が使う評価・比較の質問文でした。自社名を含む指名プロンプトではなく、「インシデント管理ツールの比較」のような非指名の検討プロンプトです。ここが成果の分かれ目になります。
- コンテンツとドキュメントの同時最適化 — 記事だけでなく製品ドキュメントも書き換えました。BtoB SaaSの場合、AIが引用元として参照するのは記事よりも技術ドキュメントであることが少なくありません。
- 週次の運用リズム — ギャップの発見、修正のリリース、効果の検証を週次で回します。
- 月次の再ベースライン — 全体を測り直し、追跡するプロンプトの範囲を広げていきます。
結果として同社は、「営業現場の感覚を、【課題の特定・修正の反映・効果検証】という再現可能な運用ループへと変えた」と評価しています。
成果を「金額」に換算するとどうなるか
数カ月の運用で、Rootly社の引用率は3%から30%へ、10倍に伸びました。非指名プロンプトでの言及率は7.5%から18.3%へ2.5倍。これを広告換算した増分メディア価値が、年間126,076ドル相当(総広告換算価値は1,169,532ドル)です。
| 指標 | 変化 |
| 引用率(Citation Rate) | 3% → 30%(10倍) |
| 言及率(Mention Rate/非指名プロンプト) | 7.5% → 18.3%(2.5倍・+10.8pt) |
| 増分メディア価値(年換算) | 126,076ドル |
| 総広告換算価値(年換算) | 1,169,532ドル |
引用率と言及率の違い
混同しやすい2つの指標なので整理しておきます。
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- 言及率(Mention Rate):AIの回答の本文中で、自社ブランドが触れられた割合
- 引用率(Citation Rate):AIの回答の出典・参照元として、自社のURLが挙げられた割合
言及は「名前が出た」、引用は「情報源として採用された」状態です。後者のほうが影響力は大きく、AIの回答の下部に出典リンクとして表示されればクリックにもつながります。Rootly社が10倍にしたのは後者でした。
なぜGEOの効果が金額換算できるのか
GEOの金額換算は、PR業界で長く使われてきた「広告換算値(AVE:Advertising Value Equivalency)」の考え方をAI検索に適用したものです。基本の考え方は「同じ露出を広告で買っていたら、いくら払う必要があったか」という置き換えにあります。
計算の骨格
AI検索における広告換算は、おおむね次の3要素の掛け算で組み立てられます。
① そのプロンプトが尋ねられている量
「インシデント管理ツール おすすめ」のような質問が、月にどれだけ発生しているか。AI検索の実測ボリュームは公開されていないため、多くのツールは対応する検索キーワードの検索ボリュームを代理指標として使います。
② そのプロンプトに対応するキーワードの広告単価(CPC)
同じ意図のキーワードをリスティング広告で買った場合のクリック単価です。BtoB SaaSの比較検討キーワードは単価が高く、ここが金額を押し上げます。
③ その中で自社が占めた割合(引用率・言及率)
3%だったものが30%になれば、獲得した露出は10倍になります。
この3つを掛け合わせ、施策前後の差分を取ったものが「増分メディア価値」です。Rootly社のケースでは、総広告換算価値1,169,532ドルのうち、GEO施策によって新たに得られた分が126,076ドルという構造になります。
なお、AthenaHQは算出式の詳細を公開していません。上記はGEO計測ツールが一般的に採用している考え方であり、同社の内部ロジックと完全に一致するとは限らない点にご留意ください。
この数字の読み方には3つの前提条件が必要です
金額が出ると議論が進みやすくなる一方、そのまま経営会議に持ち込むと後で困ります。次の3点は必ずセットで伝えるべきです。
前提条件1:広告換算値は売上ではありません
AVEはあくまで「同じ露出を買ったら」という仮定の金額です。126,076ドルの売上が立ったわけでも、その分のコストが浮いたわけでもありません。PR業界でもAVEは批判の多い指標で、現在は補助指標として使うのが一般的です。
前提条件2:AIの回答での露出はクリックを保証しません
引用されても、ユーザーがリンクを踏まずに満足して離脱するケースは多くあります。むしろAI検索の本質はそこにあります。
前提条件3:商材によって効きやすさが大きく変わります
Rootly社が大きな成果を出せたのは、BtoB SaaSという「比較検討にAIが使われやすく、かつクリック単価が高い」領域だったからです。低単価のBtoC商材で同じ計算をしても、金額は大きくなりません。
それでもこの換算に意味があるのは、GEOという施策を「効果不明の新しい取り組み」から「他チャネルと同じ土俵で比較できる投資」へ移せるからです。実際Rootly社では、AI検索が成長の第一の柱と位置づけられ、SEOや広告と並んで経営報告に載るようになりました。予算配分の議論に乗せられたこと自体が、この事例の最大の成果と言えます。
日本市場ではどう読むべきか
日本でもゼロクリック化とAI検索の普及は明確に進んでいます。ただし、AI経由の流入がサイト全体に占める割合はまだ1%未満であり、AI流入のCVRが他チャネルより高いとも限りません。Rootly社の金額をそのまま日本の自社に当てはめるのは危険です。
普及は進んでいる
総務省『令和8年版 情報通信白書』によると、日本国内で生成AIを使ったことがある個人は58.8%。前年度調査の26.7%から2年で倍増しました(2026年1〜2月実施/10〜69歳・日本n=1,236)。うち約3割が「ほぼ毎日」利用しており、一度試して終わりではない定着が確認できます。
ただし国際比較では、日本は依然として最も低い水準にあります。
| 国 | 生成AIの利用経験率 |
| 中国 | 93.6% |
| 米国 | 75.6% |
| ドイツ | 75.6% |
| 日本 | 58.8% |
この差の読み方が重要です。日本のAI検索普及は、まだ米国の到達点まで距離があります。裏を返せば、Rootly社が直面した「AIの回答の中で見えない」という状況は、日本ではこれから本格化するということです。米国のBtoB市場で起きた変化を、時間差で追いかける形になります。
そして、その変化の実態を示すのが「ゼロクリック」です。博報堂DYONEの次世代サーチ研究所が公表した「AI検索白書2026」(2025年11月調査/2026年3月2日公表)では、AIの回答を得た後にサイトを訪問しない割合が23.9%に達しました。およそ4人に1人が、答えを得た時点で行動を終えています。同調査のAI検索利用率は私的シーンで27.6%、業務シーンで29.9%と、半年前(私的8.4%/業務9.4%)から約3倍に伸びました。
だが「AI流入が穴を埋める」は前提にできない
では、AI経由の流入は実際にどれだけ来ていて、どれだけ成果につながっているのか。ここは推測ではなく実測データで確認する必要があります。
Contentsquareが公表した「2026 Digital Experience Benchmark」は、6,500サイト・990億セッションを分析した大規模調査です(2024年Q4〜2025年Q4の比較/2026年2月25日公表)。AI経由の流入について、次の数字が出ています。
| 指標 | 実績 |
| AI経由流入の伸び | 前年比 +632% |
| 全流入に占める割合 | 0.2%(ソフトウェア業界は0.3%、サービス業界は0.5%) |
| AI経由のCVR | 1.3%(前年比+55%) |
| 参考:メール経由のCVR | 1.9% |
| 直帰率 | 他チャネル比 -5%(改善) |
この5行のデータからは、主に次の3つの事実が読み取れます。
質は着実に良くなっています。 直帰率は他チャネルより5%低く、CVRも1年で55%改善しました。AI経由のユーザーが明確な意図を持って到達しているという解釈は、データと整合します。
しかし量は、まだ事業を賭ける規模ではありません。 伸び率+632%は目を引きますが、全流入に占める割合は0.2%。ソフトウェア業界でも0.3%です。1,000セッションのうち2〜3件、という水準です。
そしてCVRは、まだ既存チャネルに届いていません。 1.3%というAI経由のCVRは、メール経由の1.9%を下回ります。「AI経由は購買意欲が高い」という業界の通説は、方向としては正しくても、既存チャネルを置き換える段階にはありません。
これらを並べると、日本市場での現在地が見えてきます。入口は確実に細くなっているが、AI経由の流入を増やすことでその減少を埋めきれる段階にはまだない。 つまりGEOは「流入を取り戻す施策」ではなく、「細くなった入口の中で、検討リストに残るための施策」として位置づけるのが正確です。
明日から測れるようにする3つのステップ
金額換算はゴールであって出発点ではありません。まず必要なのは、自社が「どの質問に対して、どう説明されているか」を知ることです。ツールを導入する前に、無料でできる確認から始めてください。
ステップ1:非指名の比較検討プロンプトを10個書き出す — 自社名を含めないことが条件です。「〇〇ツール おすすめ 比較」など、買い手が検討を始めた段階で投げそうな質問文を挙げます。
ステップ2:実際にAIに聞いて、自社が出るか確認する — ChatGPT、Gemini、GoogleのAI Modeなど複数のエンジンで同じ質問を投げます。見るべきは3点。自社が挙がるか、何番目か、出典として自社URLが引かれているか。
ステップ3:出ない理由を構造の問題として切り分ける — 原因はコンテンツの有無だけとは限りません。比較表がテキストとして読める形式になっていない、製品仕様が画像やPDFに閉じている、第三者メディアでの言及が少ない——といった構造要因が典型です。
この3ステップだけでも、社内で議論する材料は揃います。継続的に測定して変化を金額に換算する段階で、AthenaHQのようなGEO専用ツールの出番になります。
GEOで流入させた後、取りこぼさないために
ここまで読んで「では自社もGEOに投資すべきだ」と結論づけるのは、実は本記事が最も避けたい読まれ方です。
入口が細くなる時代に確実に効くのは、来訪1回あたりの成果を上げることだからです。ゼロクリックが23.9%に達し、AI経由の流入がまだ1%未満という数字が意味するのは、「サイトに来てくれた1人の価値が、これまでより高くなった」ということにほかなりません。AIで比較検討を済ませたユーザーは来訪時点の購買意欲が高い。裏を返せば、そこで体験が期待を下回ったときの損失も大きくなります。
だからこそGEOは、来訪後の設計とセットで考える必要があります。
見えるようにする — AI検索経由で来たユーザーが、どこで迷い、どこで離脱したのか。行動データを可視化しなければ改善は仮説の当て合いになります。セッションリプレイや離脱要因の特定を担うContentsquareの領域です。
検証する — 特定した仮説を、思い込みではなくテストで判断します。A/Bテストツール(VWO、AB Tasty等)で効果が確認できたものだけを本実装する流れです。
GEOで検討リストに残り、来訪したユーザーを可視化し、テストで取りこぼしを減らす。この3つが揃って初めて、Rootly社のような「金額で語れるGEO」が成立します。
まとめ:まずは自社名を伏せて、AIに聞いてみてください
Rootly社の事例が示したのは、GEOの効果が測れるということ以上に、測れる形にしないと予算がつかないという当たり前の事実です。引用率3%→30%という数字も、それ単体では社内を動かせません。広告換算という共通言語に翻訳したからこそ、AI検索がSEOや広告と並ぶ経営指標になりました。
同時に、この事例をそのまま日本のBtoC事業に当てはめるべきではありません。日本のAI検索利用率は半年で3倍に伸びた一方、AI経由の流入は全体の1%未満。GEOは流入を取り戻す魔法ではなく、細くなった入口の中で候補に残るための施策です。そして残った入口から来た1人を確実に成果につなげる設計——CX改善とCRO——が、今も優先順位の最上位にあります。
最初の一歩に予算は要りません。自社名を伏せた質問文を10個作り、AIに投げてみてください。自社が挙がらない、あるいは誤った説明をされているとしたら、それがあなたの現在地です。
そこから先——測定の仕組み化、来訪後の体験改善、検証の運用に踏み込む段階でリソースや知見の壁にぶつかったら、ぜひご相談ください。ギャプライズでは、AI検索での可視性計測(AthenaHQ)から行動データの可視化(Contentsquare)、A/Bテストによる検証まで、海外で実績のあるソリューションを国内で提供しています。GEOを「やってみた」で終わらせず、事業成果に接続するところまで一緒に設計させてください。
よくある質問(FAQ)
Q:GEO(生成AI最適化)とは何ですか?
GEO(Generative Engine Optimization)とは、ChatGPTやGemini、GoogleのAI Modeといった生成AIの回答の中で、自社が適切に紹介・引用されるよう最適化する取り組みです。検索結果での順位を上げるSEOに対し、GEOは「AIが生成する回答の中に含まれること」を目的とします。
引用率と言及率は何が違いますか?
言及率(Mention Rate)はAIの回答本文で自社ブランドが触れられた割合、引用率(Citation Rate)は回答の出典・参照元として自社URLが挙げられた割合です。引用のほうが情報源として採用された状態であり、クリックにもつながりやすいため、影響力は大きくなります。
Q:SEOとGEOは別々に取り組むべきですか?
土台は共通します。AIは検索インデックスを参照するため、SEOで評価されるコンテンツはGEOでも有利です。ただし最適化の対象は異なります。SEOがランディングページ単位の評価であるのに対し、GEOでは比較表の構造、製品ドキュメントの記述、第三者メディアでの言及といった「AIが引用しやすい形」が問われます。
Q:GEOの効果はどう金額換算するのですか?
「対象プロンプトの発生量 × 対応キーワードの広告単価(CPC) × 自社の引用率・言及率」の掛け算で、広告換算値として算出するのが一般的です。ただしこれは「同じ露出を広告で買った場合の金額」であり、実際の売上ではありません。社内報告に使う際は、その前提を明示することをおすすめします。
Q:AI検索経由の流入は、通常の検索流入よりCVRが高いのですか?
現時点では、既存チャネルを上回るとは言えません。Contentsquareの調査(6,500サイト・990億セッション)では、AI経由のCVRは1.3%。前年比+55%と改善傾向にあるものの、メール経由の1.9%には届いていません。直帰率は他チャネルより5%低く、意図が明確なユーザーが来ている傾向は確認できます。ただし業種による差が大きいため、最終的には自社で計測して確認する以外にありません。
出典・参考
本記事は、AthenaHQが公開した事例「10x Citation Rate: Rootly GEO Case Study」を参考に、日本市場の調査データと解説を加えて再編集したものです。
- AthenaHQ「10x Citation Rate: Rootly GEO Case Study」(https://athenahq.ai/case-studies/10x-citation-rate-rootly-geo-case-study)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』(2026年7月公表/個人向けアンケートは2026年1〜2月実施・10〜69歳・日本1,236件/米国・ドイツ・中国 各624件)
- 博報堂DYONE 次世代サーチ研究所「AI検索白書2026」(2026年3月2日公表/調査実施2025年11月)
- Contentsquare「2026 Digital Experience Benchmark」(2026年2月25日公表/6,500サイト以上・990億セッション・2024年Q4〜2025年Q4比較)https://contentsquare.com/guides/digital-experience-benchmark/
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。