「探す」から「相談」へ、会話型AIが変えるEC検索の未来
ECサイトで「検索窓に打ち込んでも、微妙にズレた商品が表示される」「『0件ヒット』が表示されてしまう」
運営やマーケティングに携わっていれば、一度はこんな心当たりがあるのではないでしょうか。
原因の一つは、従来の検索がキーワード一致を前提としているため、ユーザーが言葉にしきれない購買意図を捉えにくいことです。
「ユーザーが欲しいものを見つける」ために必要なのは、明確なキーワードがなくても、その要望を理解できる仕組みです。
EC向けパーソナライゼーションを提供するDynamic Yield by Mastercardの会話型AIソリューション「Shopping Muse」は、口語的な言葉の裏にあるニーズを読み取り、商品を提案します。
本記事では、従来のキーワード検索で購買意図を捉えにくい理由と、Shopping Museが会話からニーズを読み取って商品提案につなげる仕組みを説明します。
目次
なぜ従来の検索やチャットボットでは「意図」が伝わらないのか
UXリサーチ機関Baymard Institute※(ベイマード・インスティテュート)が2026年に発表した最新のベンチマーク調査によると、170以上のECサイト・アプリのうち、デスクトップサイトの46%、モバイルサイトの58%、アプリの64%が『合格点』に届いていないと評価されました。
評価基準となったのは、表記ゆれへの対応や検索結果の関連性など、Baymardが定める検索UXのベストプラクティスです。
ユーザーの約半数は商品を探す際にナビゲーションではなく検索を使うといわれており、この検索体験の欠陥は放置できない機会損失になっています。
では、なぜ従来の検索窓や、あらかじめ決められた分岐でしか答えないシナリオ型チャットボットでは、この状況を変えられないのでしょうか。理由は大きく3つあります。
文字列一致が前提:
商品データに書かれた単語との一致が中心になるため、「春っぽい」「オフィスでも使える」といった言い換えや曖昧な表現を拾えない場合があります。
タグ付けの範囲でしか探せない:
用途やシーンといった概念は、商品側に人力でタグを付けて初めて検索対象になります。付けきれていない部分は原理的に見つかりません。
たとえばバッグの「仕切りの数」や「収納ポケットの有無」といった内部の仕様は、多くのECサイトでタグ付けされておらず、該当する商品があっても検索に出てこないことがあります。
会話の文脈を保持できない:
「もう少し明るい色で」「予算を下げて」といった、直前のやり取りを踏まえた微調整の指示を、毎回ゼロから処理する仕組みでは正しく解釈できません。
生成AIによる会話型の仕組みは、言葉の意味を読み取る力とセッションの文脈保持によって、この3つの壁を越えようとするアプローチだといえます。
(※)Baymard Institute:2008年設立の独立系UX研究機関。Amazon、Google、IKEAなど世界的企業を含む29,000以上のブランドが活用し、Fortune 500のEC企業の71%が導入。
「探せない」は「買わない」に直結、4割のサイトに潜む機会損失
拾いきれていない言葉にこそ、ユーザーの「ほしい」が詰まっている
Baymardの調査は、ユーザーの検索クエリを「正確な商品名・型番」「商品カテゴリ」「属性」「用途・シーン」「略語・記号」「互換性」「症状・悩み」「商品以外の情報(返品ポリシーや配送情報など)」という8つのタイプに分類しており、平均すると4割前後のサイトがいずれかのタイプへの対応に課題を抱えています。
なかでも、キーワードだけでは拾いきれない例を2つ見てみましょう。
色・素材・価格などの属性:39%のサイトに課題
例1:「赤いワンピース」
色は商品データ上、色フィルターなどの構造化データとして管理されていることが多いのですが、検索窓に入力された「赤い」という自由文が、その色フィルターと自動的に結びつくとは限りません。
多くの検索エンジンは商品名や説明文とのテキスト照合しかしていないため、色データ自体はあっても検索結果に反映されないケースがあります。
加えて「レッド」「ワインレッド」といった表記のゆれがあるだけで、同じ赤系統の商品なのに拾えないこともあります。
例2:「布製ソファ」
素材のタグ付けは商品によって粒度がバラバラで、タイトルに「布製」という言葉が入っていない商品は、実際に該当していても検索結果から漏れてしまうケースがあります。
用途・シーン:43%のサイトに課題
例1:「結婚式 ワンピース」
「結婚式にふさわしいワンピース」かどうかは、素材・丈・柄など複数の要素を人が総合判断するものです。
商品タイトルに「結婚式」という言葉が入っていることは稀なので、該当商品があっても検索結果に出てこないケースがあります。
例2:「春物ジャケット」
どのジャケットが「春向き」かは、生地の厚さや色味から人が感覚的に判断する分類です。
運営側が一つひとつの商品に「春向き」タグを手動で付けていない限り、検索エンジンがこの関連付けをできないことがあります。
この2つに共通するのは、正解が一つに定まらず、色味や価格感、シーンの捉え方に幅があるという点です。
単純なキーワード一致に頼った検索エンジンでは、ユーザーの頭の中にある「なんとなくこんな感じのものが欲しい」という自然な言葉を正しく受け止めきれません。
結果は「該当なし」や的外れな商品一覧となり、実際には該当商品があるにもかかわらず「この店にはない」と誤解されてしまいます。
検索で行き詰まったユーザーは、そのままサイトを去る引き金になり、広告費をかけて集めた見込み客をコンバージョン直前で取りこぼす構造的な問題です。
会話型AIが意図理解の壁を越える、「Shopping Muse」という選択肢
この課題に対する一つの答えが、Dynamic Yield by Mastercardが提供する会話型AIソリューション「Shopping Muse」です。
Shopping Museは、店頭の販売員のように、ユーザーの曖昧で口語的な言葉を理解し、意図に沿った商品を提案します。
「夏の結婚式用のドレスを探しています」といった、「用途・シーン型」の相談にも応え、コーディネートまで含めた提案を返します。

あらかじめ用意された分岐シナリオで応答する従来型チャットボットと異なり、Shopping Museは決まった台本を持ちません。
「もう少し落ち着いた印象で、オフィスでも使えるものはある?」といった漠然とした要望や、「予算を少し下げて」という微調整の指示にも、その場で意図を汲み取って提案を返します。
「サマーウェディング」「オフィスコア」 のような業界用語やトレンドワードも理解するため、ユーザーは専門的な言い回しを知らなくても、自然な言葉のままで欲しいものにたどり着けます。
Shopping Museを支える6つの仕組み
こうした会話力は、複数の AI モデルを組み合わせた仕組みによって支えられています。
| 機能 | 説明 |
| AffinityML | 閲覧・購買履歴から次に欲しくなりそうな商品を予測します |
| VisualML | 画像認識により、見た目が近い商品を提案します |
| 匿名ユーザー対応 | Mastercardのデータを活用し、地域のトレンドなどから未ログインユーザーにも提案します |
| カスタマイズ性 | ブランドのトーンや見た目に合わせて調整できます |
| 幅広い連携 | チャットアイコンやウィジェット、ナビゲーションバーなど好きな場所に設置でき、既存のツールスタックとも統合できます |
| 独自ナレッジの登録 | 自社のポリシーやFAQ、専門的なガイドなどを登録でき、商品データだけでは答えきれない質問にも対応できます |
会話を重ねるほど提案の精度が上がっていく点も特徴で、キーワード一致だけでは対応しきれない検索意図に対応できる設計です。
アパレルや家具など商品点数が多く、用途や好みで選ばれることの多い業種で特に効果を発揮するとされています。
8年連続 パーソナライズ領域のリーダー
Shopping Museの提案精度を支えているのは、Dynamic Yieldが長年培ってきたパーソナライズ技術です。
Dynamic Yieldは、調査会社Gartnerの「Magic Quadrant for Personalization Engines」で、2026年まで8年連続でリーダーに選出されています。
行動データやリアルタイムの属性をもとに、一人ひとりに合わせた提案を行う力が評価されています。
Shopping Museは、この蓄積されたパーソナライズの知見と会話型AIを組み合わせることで、対話から得た情報をその場で一人ひとりへの提案に変換しています。
このパーソナライズの強みは、Shopping Museの機能アップデートにも表れています。
直近では、カートの中身を踏まえた提案機能が追加されました。
最新アップデート:カートの中身に応じた関連商品提案
世界的に展開する大手スポーツ用品小売企業の例では、商品をカートに入れた状態でShopping Museを起動し、「いまカートに入れている商品に関連するおすすめグッズを提案して」と伝えると、関連商品の提案一覧がその場で表示されます。
ここで終わらないのがポイントで、「どんなときに使いますか?」といった会話がさらに続き、利用シーンを伝えるとその場で提案が絞り込まれていきます。
カートの中身に応じた提案自体は、「よく一緒に購入されている商品」といったアプローチでECサイトに搭載されていることも多いですが、対話を重ねるほど提案の精度が上がっていく点が、Shopping Museならではのパーソナライズです。
なお、Shopping Museは、チャットアイコンやウィジェットとして検索・ナビゲーションに追加する形で導入されます。
型番や正確な商品名で調べたいユーザーはこれまで通り従来の検索を使いながら、「属性」「用途・シーン」といった、キーワード一致だけでは拾いきれなかった検索意図にもShopping Museが応えます。既存の仕組みを置き換えるのではなく、拡張する形で導入できます。
Shopping Muse導入事例:Michael Kors
実際にShopping Museを導入したブランドの一つが、ラグジュアリーファッションブランドのMichael Korsです。
2024年6月、同ブランドはアパレル小売として初めて自社ECサイトにShopping Museを統合し、結婚式や夏のレジャーのシーズンを控えた時期に導入しました。
課題と導入背景:実店舗のような接客をECサイトでも
Michael Korsは、実店舗で行う「顧客に寄り添う接客」や「スタイル提案」をECサイトでも実現したいと考えていました。ECサイトには、商品検索に加えて、顧客の好みやライフスタイルに応じた提案が求められていました。
解決策:LLMがファッション用語のニュアンスを理解して提案
そこで導入されたのがShopping Museです。大規模言語モデル(LLM)が「シック」「エレガント」といったファッション用語特有の微妙なニュアンスを理解し、Michael Korsのブランド美学に沿った商品を提案します。
成果:コンバージョン率+15〜20%、商品閲覧数+40%
初期テストにおいて、Shopping Museは従来の検索と比較して15〜20%高いコンバージョン率を記録し、セッションあたりの商品閲覧数も40%増加しました。
Shopping Museを利用したユーザーはより多くの商品バリエーションを閲覧し、商品詳細ページでの滞在時間も伸びるなど、購入意欲の高まりもうかがえたとされています。
「検索」を一種の「スタイリング相談」に変えることで、感性や美意識が重視されるラグジュアリー領域でも、迷わず購入へとつなげられることを示す一例です。
まとめ
従来の検索だけでは拾いきれない意図は、離脱率やコンバージョン率という数字となって静かに機会損失を生み続けています。
Michael Korsの例が示すように、ユーザーの自然な言葉から意図を汲み取る仕組みへと発想を転換することは、単なる体験改善にとどまらずコンバージョンという数字にも表れうるといえます。
Shopping Museの導入自体は、テンプレートを使えばコーディング不要で始められます。その上で、プロンプト設計やUI導線を自社の商材・顧客層に合わせて磨き込んでいくことで、コンバージョンの伸びしろをさらに引き出すことも可能です。
Dynamic Yield公認パートナーの株式会社ギャプライズでは、お客様の課題に合わせた伴走支援を提供しています。
会話型AIソリューション「Shopping Muse」概要資料はこちら≫
勝見 理恵
2012年ギャプライズ入社。リスティング広告/SNS広告など活用したWeb集客支援、ContentsquareやABテストツールのカスタマーサクセスを経て、現在は自社マーケティングを担当。
