トライト志賀氏が語るUXDプロジェクトと経営の覚悟|広告依存から脱却し、CVRまで責任を負う文化の醸成
医療福祉分野の転職支援サービスを展開するトライト様は、事業成長の一方で、避けて通れない集客コスト(CPC/CPA)の高騰という経営課題に直面していました。市場の競争が激化する中で広告費依存のビジネスモデルを維持するためには、競合に左右されない活路を見出す必要がありました。

その活路こそが、ユーザー体験(UX)の改善、特にCVR(コンバージョン率)の向上でした。
この一大プロジェクトを牽引したのが、常務執行役員の志賀様です。
志賀様は、前職のゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)時代にContentsquare、ギャプライズとの協業でUIUX改善を成功させた確かな実績と再現性をお持ちでした。この過去の経験が、トライトでのツール導入と運用支援の決定的な理由となり、組織全体を巻き込む変革がスタートしました。
本記事では、志賀様の経営者視点から、プロジェクト始動の背景、現場への強いメッセージ、そして組織文化をどう変革しようとしたのかを深掘りします。
目次
危機感と戦略の選択(Why CVR?)
「CPC高騰」という名の経営危機:競合に左右されない活路としてのCVR
トライトが直面していた経営上の課題は、医療・介護人材紹介市場の競争激化によって引き起こされた広告費用の高騰、特にCPC(クリック単価)の上昇でした。この外部環境の変化は、トライトの収益構造を圧迫し、持続的な成長を脅かす要因となっていました。
しかし、志賀様はこの課題に対し、外部要因に依存し、自社でコントロールが難しい広告単価そのものに手を打つという対症療法的なアプローチではなく、自社の努力と創意工夫によって確実に改善できる内部領域に集中することが、利益の確保とビジネスの安定化のための最重要戦略であると判断されました。
その集中すべき領域こそが、流入後のCVR(コンバージョン率)の改善でした。
CVR、すなわちウェブサイトを訪れたユーザーが実際に登録や問い合わせといった目標行動に至る割合を改善できれば、広告からの流入効率が根本的に高まります。その結果、CPA(顧客獲得単価)を大幅に抑制することが可能となり、市場の競争の波に左右されることなく、強固で安定した収益基盤を確立できると考えたのです。
この戦略を実行に移すにあたり、志賀様はまず、「クイックウィン(短期間で最大の効果)」が得られる領域、すなわちユーザーが必ず通過する接点に焦点を絞ることを決定しました。具体的なターゲットは、LP(ランディングページ)やEFO(エントリーフォーム最適化)です。
これらの接点は、ユーザーがアクションを起こす直前の「最後の砦」であり、ここでのわずかな改善が、全体のCVRに最も大きなインパクトを与えると見込んでいたからです。
志賀様が描いたのは、単なる一時的な改善に留まらない、多段階にわたる戦略でした。
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- 第一段階として、まずは最も影響の大きいLPのCVRを徹底的に、かつ集中的に改善します。この初期段階では、実行のスピードと量を重視し、ABテストツール「ABTasty」を活用。
※ギャプライズと連携し、わずか数か月で約130本ものABテストを敢行しました。 - この初期の成功体験から、効果的なABテストの手法、ユーザーインサイトの分析、そして施策立案のノウハウといったナレッジを体系化します。
- 第二段階として、体系化された成功ナレッジと改善サイクルを組織全体、特に他のウェブページやエントリーフォームなどの接点へと展開し、恒常的な改善文化として定着させていくことを目指しました。
- 第一段階として、まずは最も影響の大きいLPのCVRを徹底的に、かつ集中的に改善します。この初期段階では、実行のスピードと量を重視し、ABテストツール「ABTasty」を活用。
この戦略により、トライトは外部環境の変動に強い、自律的な成長モデルの構築を推し進めることになったのです。
志賀氏陣頭指揮の元、組織横断による組織の変革
部門の壁を破壊した「強いコミットメント」:CMO直下の組織設計とデータ文化の醸成
UX改善を成功させるには、単なる施策実行だけでなく、組織文化そのものを変える必要があると志賀様は考えました。
そのために打ち出したのが、従来の組織の常識を覆す強いメッセージです。

この変革を推進するにあたり、志賀様は組織全体に対して、「ユーザーエクスペリエンスデザイン(UXD)」の理念に基づいた明確な方向性を打ち出しました。
それは、「すべてはお客様の体験を中心に考える」というお客さんにフォーカスした組織への脱皮です。そして、UXDを全社的に実現するために、部署間の壁(セクショナリズム)を排除し、職種横断で一体となって取り組む組織変革が断行されました。
集客部門は、流入後のLPのCVR改善まで責任を持つべきだ
通常、広告代理店や集客部門は「流入」までをKPIとし、LP以降のCVRは制作・開発部門の責任とされることが少なくありません。しかし、志賀様は、「広告の文脈を一番よく知っている集客担当者が、LPのUX改善にもコミットしなければ、真の成果は出せない」と断言しました。
この強いリーダーシップのもと、CMO直下でマーケティング部門が「UXD本部」へと再編されました。この組織改編は、集客、デザイン、開発、CRMなど、各職種のメンバーが部門の壁を超えて一体となるための、CMOとしての枠組み作りでした。
組織共通の「言語」としてのContentsquare
この変革を支えるツールとして選ばれたのが、Contentsquareです。志賀様は、ツールの役割を単なる分析に留めず、現場の意思統一を図るための「データという共通言語」として位置づけました。
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- 定性的な裏付け:
ログデータだけでは見えなかったユーザーの具体的な行動や迷いをセッションリプレイなどで可視化。 - 共通認識:
これにより、集客部門が抱える「広告の意図」と、デザイン・開発部門が直面する「サイト上の課題」が結びつき、多職種で同じデータを見て議論できる環境を整備しました。
- 定性的な裏付け:
志賀様は、「行動観察調査を、毎日、全員でやっているのと同じことだ」と、このツールの本質を表現し、社員に「毎日見ること」を強く推奨しました。これは、CMOによる、現場の「観察眼」と「仮説構築力」を徹底的に鍛え上げるための訓練(筋トレ)の指示でした。
成果とその先にあるビジョン(Vision for the Future)
CVR大幅向上の成果と未来への投資:志賀氏が目指す「全タッチポイントのUXD」
志賀氏陣頭指揮の元、組織横断での強い戦略と現場の実行力が相乗効果を生み、初期のLP改善ではCVRが大きく向上するなど、目覚ましい成果を上げました。
しかし、志賀様のビジョンはここで終わりません。
達成された成果を土台として、今後はさらなるUX向上と利益最大化を目指します。
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- 次なる課題:
サイト全体のプラットフォーム刷新、古い情報が残りがちな求人票の質向上。 - 未来の展望:
トライトは今後、転職以外の文脈も含む「全タッチポイント」でユーザーとつながり続けることを目指しています。志賀様は、これらのあらゆる接点において、一貫した最高品質のユーザー体験を提供する「UXDの実現」を最終的な目標としていると言います。
- 次なる課題:
AIへの期待:属人性を排除し、思考の領域まで踏み込むインサイトを
この広範なUXDの実現において、志賀様はAIに大きな期待を寄せています。
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- 平準化とスケール:
現在、分析の質は個人のスキル(観察眼や仮説構築力)に大きく依存しています。AIには、優秀な人材の分析視点や洞察を学習し、組織全体の分析能力を底上げする「能力の平準化」を期待しています。 - 思考の領域:
最終的に志賀様が期待するのは、単なる行動データやセグメントの分析を超えて、「なぜユーザーはそこで迷い、立ち止まったのか」というユーザーの「思考の領域」を推定し、施策に直結するインサイトを提供することです。 - 未来の役割:
AIがこの分析とインサイト提供を担うことで、人間は「次に打つべき施策」という、最も付加価値の高い業務に集中できる体制を目指しています。
- 平準化とスケール:
志賀様は、UX改善を単なる施策ではなく、競合が容易に真似できない「競争力のある組織資産」と捉え、そのための投資と組織改革を断行しました。この強い経営の覚悟が、トライトの持続的な成長を牽引しています。
※所属・役職は取材時(2025年11月)のものです
次回予告
【実行編】ログの「なぜ」をデータで解明|職種横断チームの『How』と現場の変革
データ分析で課題を特定するだけでは現場は変わりません。次回の記事では、志賀様の意思決定を受けて、現場でどのように連携し、データに基づいた改善サイクルを「再現性をもって」定着させたのか、その具体的な手法(How)と組織変革の道のりを各ご担当者へのインタビューを通じて徹底解説します。単なる成功事例ではなく、貴社組織でも活かせる実践的な内容となっています。乞うご期待ください。
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。
