【ヤマハMEH様事例】ABテストツールの戦略的導入がもたらしたプロセスの進化
みなとみらい21中央地区の新たなランドマークとして注目を集める横浜シンフォステージ。その中にオフィスを構える株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス様を訪問し、ABテストツールの活用について、お話を伺いました。
担当者プロフィール
- 前田茜様(写真一番右)
システム技術室 兼 ミュージックメディア部マーケティンググループ
担当領域:開発マネジメント・サイト企画
業務:サイト戦略策定、開発、顧客分析
- 大畑明子様(右から2人目)
ミュージックメディア部マーケティンググループ
担当領域:WEBマーケティング
業務:販促企画、広告運用、データ活用
ご担当サービス
ぷりんと楽譜:https://www.print-gakufu.com/ (楽譜配信サービス)
サービス説明
楽譜を1曲からオンラインやコンビニで購入できる楽譜配信サービス。約5万点の楽譜がアプリで見放題になるサブスクリプションサービスも提供している。
導入ソリューション
目次
ABテストツール導入の背景にある課題意識
「以前は改善施策を実施しても、その効果検証が十分にできていませんでした」
株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス システム技術室の前田様は、ABテストツール導入以前の課題をそう振り返ります。
施策の効果は前後比較による検証が中心で、PDCAサイクルを効果的に回すことができていなかったといいます。
「良い結果が出るとそこで満足してしまい、次のアクションにつなげられていませんでした。また、前後比較では外部環境による影響もあり得るため、正確な効果計測が難しく結果の判断に迷うこともありました」
ミュージックメディア部マーケティンググループの大畑様も同様の課題を感じていました。
「広告運用では、媒体のABテスト機能によって手軽に新しい入札戦略やクリエイティブを試すことができたので、サイトでも同様にABテストによる改修の実装判断を行いたいと感じていました」
ツール選定の決め手
2023年4月、同社はABテストツールの本格導入を検討し始めます。当初はGoogle Optimizeを使用していましたが、2023年9月のサービス終了に伴い新たなツールの選定が必要となりました。
「ツール自体の機能はもちろん重要ですが、私たちが特に重視したのはサポート体制でした。単にツールを使えるようになるだけでなく、PDCAサイクルを確実に回せるチーム体制を作ることが重要だと考えていました」
最終的にVWOの採用を決定した理由について、前田様は次のように説明します。
「ギャプライズさんの各担当者の役割とミッションが明確で、サポートが必要な時は確実にサポートを受けられる。コンサルティングの際も、私たちの状況に合わせた具体的な提案をいただけました」
具体的な改善活動と成果
サブスクリプションLPの最適化
導入後、特に注力したのがサブスクリプションサービスのランディングページ(LP)改善です。
「半年前にLPリニューアルを行い効果改善ができていたのですが、検討の際にチーム内で意見が分かれた点もあったので、改めてABテストを行いさらなる改善を目指しました。」
と大畑様は説明します。
ABテストでは、キャッチコピーの変更や、解約に関する情報の配置などを検証しました。
また、ヒートマップ分析も活用し、ユーザーの行動パターンを詳細に分析しました。
「例えば、よく演奏されている曲のエリアのクリック率が高いことがわかり、掲載曲を定期的に更新する重要性が明確になりました。その結果、更新頻度や更新タイミングの運用見直しにもつながりました。」
UIの段階的な改善
楽譜一覧ページも全面改修を行った後でしたが、要素のレイアウトやボタンの色、CTAテキストにまだ検討の余地がありました。
「一覧ページの【詳細を見る】ボタン色について、当初はサイトカラー同様に紫色を使用していましたが、ABテストの結果を踏まえてより目立つ緑色に変更しました」と説明します。
「価格の表記方法や配置、ボタンの配置についてもいくつかのパターンを試してみて、効果最大化できる最適なレイアウトに改善しています」
改善の成果は、主にコンバージョン率(CVR)で測定しています。
「楽譜のダウンロード購入とサブスクリプション入会の2つが主要なKPIです」と大畑様は説明します。
開発プロセスの変革
ABテストツールの導入は、開発チームとの連携にも大きな変化をもたらしました。前田様は
「ABテストツール導入前は、改善策を決定するプロセスにおいて、データによる根拠を出せない箇所もあり、時間をかけて最適な改善策を議論し、開発メンバーと共有していました。今はデータに基づいて具体的な改善提案ができるようになりました」と語ります。
「開発チームの反応も良く、週次でのリリースサイクルが確立されています。エビデンスに基づく提案なので、開発リソースの効率的な配分も実現できています」
ツール活用における信頼関係の構築
「当初は不安もありましたが、実際の運用ではギャプライズさんから非常に有益な支援を受けられています」と大畑様は振り返ります。
「特にテスト結果の判断やテスト停止するタイミングで悩むことが多かったので、定例会の場で担当の伊藤さんへ相談していました。計測の中間指標やデバイス別などより細かな視点で分析していただいたり、『レビューのときはヒートマップも必ず確認してください』というアドバイスもいただき、それらによって新たな気づきが得られました」
「過去の実績に基づく納得感のある意見やアイデアを提供してくれるので、PDCAを回す上で非常に心強い存在です」と前田様も補足します。
ABテストの課題とナレッジ蓄積
一方で、課題もあります。「仮説立てが難しく、テスト設計に行き詰ることもあります。」と大畑様は指摘します。
「ひとりで考えていると自分の経験の範囲内でしかテスト案が思いつかないのですが、伊藤さんへの相談や、上長や開発チームへのレビューなど、立場の違う方とのディスカッションを通して新しいアイデアを得ることも多くありました。」
前田様はABテストの試行錯誤がチームの経験値につながったと語ります。
「勝ちパターンだけでなく、勝たなかったパターンからも学ぶこともでき、次の施策へ活かす視点が広がりました。また、他社のトレンドを覆す結果もあり、自社独自のアプローチを検証し、社内の知見を蓄積できた点も大きな成果だと感じています。」
今後の展望:レコメンド機能の改善とUGC活用
今後の展開について、大畑様は「レコメンドの最適化を重要な課題として捉えています」と説明します。
「例えば、現状では楽譜詳細ページとカートページでのみレコメンドを表示していますが、トップページや一覧ページへの展開も検討中です。レコメンドロジック違いや表示位置、タイトル違いなどをABテストにより検証していく予定です」
「どういうユーザーにどのような商品を提案すべきか、まだ進化の余地があると考えています」と前田様は補足します。
「VWOを活用して、レコメンドの有無による正確な効果計測や、表示方法の最適化を進めていきたいと思います」
また、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用にも意欲的です。
「お客様自身が演奏の楽しさを発信でき、その楽しさが他のお客様にも自然と広がっていくような場をつくりたいと考えています」
まとめ:データドリブンな意思決定文化の確立に向けて
ABテストツールの導入から約1年。開発チームとの連携強化や、データに基づく意思決定プロセスの確立など、具体的な成果が表れています。
「ABテストツールの導入は、単なるデータの活用にとどまらず、プロセスの進化につながっています」と前田様は締めくくります。
「今後は、より多くのメンバーがデータドリブンな改善活動に参加できる体制を作っていきたいと考えています」
おわりに:新たな音楽体験の発信拠点として
今回の取材では、同ビル1~2階に2024年6月にオープンした「ヤマハミュージック 横浜みなとみらい」も見学させていただきました。
このショップは、楽器経験の有無を問わず、誰もが気軽に音楽や楽器を楽しむことができる体験型の施設です。1階には吹き抜けのある開放的な空間に大型LEDディスプレイを設置したエクスペリエンスゾーン「Music Canvas」があり、2階には250点を超える楽器が展示された「MUSIC SHOWCASE」や、25,000冊以上の楽譜・書籍を取り揃えたエリアがあります。
デジタルとリアルの両面から、音楽の素晴らしさを伝えていく株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス様。今後の展開にも注目が集まります。
ギャプライズ担当者の声
社として掲げたUI・UXの改善プロジェクトに参画できたことを、嬉しく思っております。数々のABテストプロジェクトを支援してきておりましたが、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス様は、最も社内の意識改革までつなげて頂いたと感じております。施策を行う際の仮説精度、企画力、テスト施策の本番反映など、ABテスト以外の社内の変化も起こして頂いたお二人には感謝とともに、これまでも使い続けていただきたく、サポートさせていただきます。
お問い合わせ当初から担当させて頂いておりますが、エンドユーザー様への想いの強さ、そして実行スピードに驚いておりサイトのUI/UXも1年前とは様変わりしております。サイトの変革と組織変革に弊社サービスがお役に立てていることを嬉しく思います。
ご協力ありがとうございました
聞き手:伊藤、栁澤、今本
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。