サブスクの顧客ライフサイクル別パーソナライズ施策とは?欧州最大手Skyが実践したDynamic Yield事例
サブスクリプションビジネスにおける「顧客ライフサイクル」とは、認知・検討から契約、そして利用・定着に至る一連のプロセスのことです。
このプロセスにおいて、「新規申込みを増やす」「契約直後の離脱を防ぐ」「長期利用を促す」「解約した顧客を呼び戻す」各施策は、それぞれアプローチが異なります。顧客がどのフェーズにいるかによって、響くメッセージも変わるためです。
パーソナライズ施策を導入すれば、顧客一人ひとりの状態に合わせた体験を提供し、各施策の検証と実行を効果的に進められます。
打ち手を整理することは、これから取り組む方はもちろん、次の一手に悩む方にとっても施策の優先順位を決定する大きなヒントとなるはずです。
本記事では、欧州最大級のメディア企業Sky社が、動画配信サービス(NowTV・WOW・Sky X)においてDynamic Yieldを活用し、顧客ライフサイクルごとの課題をどう解決したのかをフェーズごとにご紹介します。
サービス規模に関わらず、参考にしていただける点もございますので、ぜひご覧ください。
▼本事例の概要
課題:サブスク事業は新規獲得・契約直後の離脱防止・既存育成・休眠掘り起こしと、フェーズによって課題も打ち手も異なる
施策:Dynamic Yieldで、新規顧客(見込み客・契約直後)/既存顧客/解約済み顧客のそれぞれに合わせたパーソナライズ体験を実施
成果:
新規顧客|契約直後の解約 -39%
既存顧客|アップセル +13%、契約継続 +4.8%
解約済み顧客|復帰コンバージョン +140%
※本記事はMastercardが提供する「Dynamic Yield」の公式事例を、同社の許可を得て翻訳・編集し公開しています。
目次
Skyについて
2021年、SkyはMastercard傘下のパーソナライズプラットフォーム「Dynamic Yield」を導入しました。Dynamic Yieldは、訪問者ごとに異なるコンテンツやオファーを出し分け、A/Bテストで効果を検証できるパーソナライゼーション基盤です。
Skyでは、117名の部門横断チームが、Sky X・WOW・NowTVの3サービス×5地域で、年150本以上のA/Bテストを運用しています。
Dynamic Yieldを使うことで、AIを活用したパーソナライズや体験最適化のキャンペーンを、
開発リソースをあまりかけずに素早く効果的に立ち上げられるようになりました。
(Sky、eコマース最適化・パーソナライゼーション部門責任者)
Skyのサブスクプランは、Sports(スポーツチャンネル)、Cinema(映画)、Entertainment(TVシリーズ)の3種類に分かれています。
以下は、本事例で取り上げる施策と主なKPIです。自社の課題に近いフェーズからご覧ください。
| フェーズ | 主なKPI |
| 新規(見込み客・契約直後) | コンバージョン率/即時解約率/視聴クリック率 |
| 既存 | アップセル率/契約継続期間 |
| 解約者 | 再契約率/再契約数 |
【新規向け】見込み客の獲得から契約直後の定着まで、即時解約も防いだ3つの施策
見込み顧客の「見逃したくない」気持ちを刺激し、CVR+3.1%
Skyは「見逃したくない」というユーザーの感情に訴えることで、見込み客を有料契約者に転換しようとしました。
特に成功した施策の一つは、開催が迫ったスポーツの生中継を知らせるメッセージをスポーツチャンネルページに表示する取り組みです。
例えば、オーストリア市場でスポーツページを訪れた見込み客には、間近に迫った人気サッカー試合を告知する通知を、Webとモバイルの両方で表示しました。
地域に特化したライブイベントの通知は、迷っている見込み客に「今が決め時」という後押しを与えます。
オーストリアでのこの施策は、全体のコンバージョン率6%を記録し、通知を表示しなかった場合と比べて3.1%高い結果となりました。
この成功を受けて、同様のキャンペーンは言語や取り上げるイベントを変えながら、イギリス・イタリア市場でも展開され、いずれも良好な結果を残しています。

新規契約者のメール認証後に動画視聴サイトへ直接誘導し、同月解約を-39%削減
Skyのチームは、契約したばかりの「新規契約者からの解約」を減らすことも、優先度の高いKPIに掲げていました。
この層は最も解約しやすく、契約から24時間以内に解約するケースすらあります。Skyは、コンテンツへのエンゲージメントを高めることで、この層の即時解約を減らせるという仮説を立てました。
まず、Skyはメール認証リンクをクリックした新規ユーザー向けに、異なるリダイレクトページをテストしました。その結果、動画視聴サイトに直接リダイレクトされた新規契約者は、コンテンツを視聴し続ける傾向が高いことが分かりました。
この体験を4つの地域に展開したところ、動画視聴サイトへのリダイレクトに反応した新規契約者の同月内の解約は、テスト期間中に39%減少しました。

新規契約者のオンボーディング時「スキップ」を廃止し、視聴クリック率を最大+138%に
この成功を受けて、Skyのチームは新規契約者のコンテンツエンゲージメントを高める他の方法もテストしました。
例えば、オンボーディングページ(契約直後の案内ページ)から「スキップ」ボタンを削除する検証です。
この変更により、新規ユーザーはウォッチリストに追加する視聴コンテンツを選ぶ必要が生まれ、番組を閲覧する時間が増えました。
3つの異なるサブスクリプションタイプに向けて計6本のテストがEU全域の市場で実施され、購入後にウォッチリストへコンテンツを追加するようユーザーに促しました。
このキャンペーンは視聴への遷移率(クリック率)を大きく高め、特にイギリスで+33%、アイルランドで+138%という結果になりました。
また全市場平均で、新規契約者による会員管理ページへのアクセスが-63.3%減少しており、これも解約率低下の大きな要因になっています。
[左:オリジナル]「スキップ」ボタンが表示され、ユーザーはウォッチリストに追加するコンテンツを選択せずに終了できる。
[右:バリエーション]「スキップ」ボタン削除。ユーザーは少なくとも1つ興味あるコンテンツを選択する必要がある。
【既存向け】ガイド型セリングを3カ国に展開し、契約継続とアップセルを実現した施策
「WOW」(ドイツ)のガイド型セリングで、契約継続+4.8%・アップセル+13%
Skyのドイツでのサービス「WOW」は、ガイド型セリングの効果を検証する実験の場として使いました。
ガイド型セリングとは、会員登録ボタンをクリックした後にすぐチェックアウト画面へ進ませるのではなく、プランごとの違いやお得さを説明する画面を挟んでから購入へ導く手法です。
ターゲットは、TVシリーズが見られるEntertainmentプランのみを契約している契約者です。
Entertainment単体のプランは、映画も追加で見られるFilm+Entertainmentのセットプランに比べて提供価値が低く、契約期間も短いものでした。Skyは、この層によりお得なセットプランへのアップグレードを促そうとしました。
チームはWOWのトップページに、TVシリーズ・映画+TVシリーズ・ライブスポーツという3つのプランを掲載したメインバナーを設置し、見込み客に明確なCTAを提示。
各CTAをクリックしたユーザーは、通常のチェックアウト画面ではなくアップセルページへリダイレクトされ、契約期間が長いプランほど月額料金が下がる具体的な割引内容が表示されました。

[左:Step1|WOWのメインバナー]Skyは3つのエンターテイメントパッケージオプションをメインバナーにCTA掲載、アップセルページにリダイレクト。
[右:Step2|サブスク期間選択画面]各サブスクリプションタイプで利用できる割引についてユーザーに情報を提供し、より長期の契約を促しました。
このドイツ地域でのガイド型セリングのテストでは、契約継続期間が+4.8%向上し、セットプランへのアップセルが+13%増加しました。
イタリア・イギリスへの横展開で、購入+6%とクリック率+4%を追加
このキャンペーンは、コンテンツ・ラジオボタン・オファーの見せ方・商品構成などを含む、より大規模なガイド型セリングの取り組みへの最初のきっかけとなり、EU3市場に展開しました。
イタリアでは、ドイツでの当初のキャンペーンと同様のロジックを踏まえつつ、アップセルページにラジオボタンを追加するというデザイン上の違いを検証。イギリスでは、Cinemaプランをクリックした全ユーザーを、チェックアウト画面の代わりにこのアップセルページへ誘導しました。

[左:イタリアのラジオボタン画面]ドイツのキャンペーンと同様のロジックを適用後、アップセルページにラジオボタンを追加することでデザインの違いをテストしました。
[右:イギリスのセットプラン選択画面]シネマパッケージをクリックしたすべてのユーザーを、決済ページではなくアップセルページに誘導しました。
イタリアのラジオボタンテストでは、より長い契約期間のプランの購入が6%増加。イギリスのリダイレクトテストでは、見込み客のクリック率が+4%向上し、セットプランの購入が全体で+3%増加しました。
【解約者向け】期間限定オファーで、休眠顧客の復帰コンバージョンを+140%押し上げた施策
Skyは、解約済みの元契約者を、直近で解約した層と、30日以上契約していない層に分けて捉えています。訪問者がサイトを訪れると、Dynamic Yieldが過去の契約状況を自動で判定し、その状況に合わせてオファーの内容を出し分けます。
例えば、イタリアで実施した施策では、次のようにセグメントごとに異なる期間限定オファーを提示しました。
| 対象セグメント | 過去の契約状況 | 表示オファー |
| セグメント1 | 解約直後:直近でEntertainment/Cinemaの契約失効 | Entertainment/Cinemaの特別割引 |
| セグメント2 | 長期未契約:直近の契約履歴なし(30日以上) | 3つのプランすべてに特別価格 |

[左:解約直後向けオファー]最近映画またはエンターテイメントのサブスクリプションが失効した顧客向けに、映画とエンターテイメントの特別割引を提供。
[右:長期未契約向けオファー]最元契約者向けに、イタリアで期間限定のキャンペーンが実施され、3種類の定期購読プランすべてで特別価格を提供。
メールや広告などの施策をきっかけにサイトを訪れ、このオファーを見たグループでは、再契約率が最も高く23%に達しました。一方、同じグループに通常のオファーを見せた場合の再契約率はわずか4%でした。
こうしたパーソナライズの効果により、4週間で見た再契約数は、通常のオファーと比べて約140%増加しました。
【今後の展望】解約直後ユーザーへのアンケート×レコメンドで、次のパーソナライズを模索中
Skyのパーソナライズは、これまでコンテキストやプロフィール、契約データ、UXの実験をもとに、コンバージョン・クロスセル・アップセルの成果を積み重ねてきました。一方で、プロダクトフィード(レコメンドの土台となるデータ基盤)がなかったため、高度なレコメンド機能は使えていませんでした。
最近、Skyのチームはこの初期のプロダクトフィードの整備を完了させました。これにより、コンテンツのレコメンドや、訪問者との新たな接点を作れるようになり、今後のロードマップの第一歩を踏み出しています。
このフィードを検証するため、Skyのチームは、解約直後のユーザーの再エンゲージメントを目的とした初期のユースケースを展開しました。
解約済みユーザーに対して、離脱の理由を把握するためのアンケートを提示し、その回答に応じてコンテンツや記事をレコメンドするというものです。

このテストを通じて、Skyのチームは今後数か月で開発するより詳細なプロダクトフィードのベストプラクティスを見出しつつあります。
将来的には、ヘルプセクションでのレコメンド表示や、よりシームレスで自動化されたカスタマーサービス体験の実現も見据えています。
まとめ:フェーズごとに施策を変えることが、解約防止とアップセルの両方を実現する
Skyの事例が示すように、サブスク事業では新規・既存・解約済みという顧客の状態によって、有効な施策もKPIが異なります。
見込み客には緊迫感、契約直後には定着のための体験設計、既存契約者にはガイド型の教育的アップセル、解約済み顧客には状況に応じたオファーの出し分けと、一つひとつのフェーズに合わせた施策が、それぞれ数字として結果に表れています。
自社が今どのフェーズに一番課題を感じているか、まずはそこから優先順位をつけて取り組んでみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介したのはSky1社の事例ですが、Dynamic Yieldでは22社のグローバル成功事例をまとめた資料をご用意しています。自社に最適な施策の検討やアイデア出しに、ぜひあわせてご覧ください。
Dynamic Yieldのグローバル事例集をダウンロードする≫
勝見 理恵
2012年ギャプライズ入社。リスティング広告/SNS広告など活用したWeb集客支援、ContentsquareやABテストツールのカスタマーサクセスを経て、現在は自社マーケティングを担当。
