【Dynamic Yield導入事例】急成長スポーツブランド「On」がROI348倍を実現したパーソナライゼーション戦略
スイス発のスポーツウェアブランド「On(オン)」は、2025年12月期決算で売上高30億スイスフラン(約6,069億円)を突破し、粗利益率も過去最高の62.8%を記録するなど、老舗ブランドをしのぐ急成長を続けています。
このデジタル面での躍進を支えているのが、AIパーソナライゼーション・プラットフォーム「Dynamic Yield(ダイナミック・イールド)」です。
Onは、オンラインシューズ販売の開始からわずか4年後の2018年、アパレル展開とコミュニティ構築を本格化させるタイミングでDynamic Yieldを導入しました。WebサイトのサーバーサイドAPI移行、AIアルゴリズムによるクロスセル、リアルタイムの天候・位置情報と連動した顧客体験を実装し、大きな成果を上げています。
▼本事例の概要
・ビジネス上の課題:ランニングシューズとしての強固なブランド認知をベースに、「総合アパレルブランドへの拡大」と「コミュニティの構築」を同時に実現すること。
・導入施策:WebサイトをサーバーサイドAPIへ移行。AIアルゴリズムによるクロスセルロジック(カート内の条件分岐・検索0件ヒット対策)や、リアルタイムの天候・位置情報連動バナーの実装。
・定量的な成果:投資対効果「ROI348倍」を達成。商品詳細ページ(PDP)におけるクロスセル施策により、靴以外の製品へのクリック率が537.46%増加。
本記事では、総合アパレルブランドへの拡大という課題に対し、Onがデータ活用によってどのようにアプローチし、現在の成長基盤を築いたのか、その具体的な施策と検証プロセスを解説します。
※本記事はDynamic Yield社の公式事例を、同社の許可を得て翻訳・編集し公開しています。
ブランド紹介:Onの概要と成長スピード
Onは、2010年にスイスのチューリッヒで設立されたスポーツウェアブランドです。「シューズ界のアップル」とも評され、2021年9月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しました。
2025年12月期決算に見る、Onの圧倒的な成長スピード
Onは世界規模で他を圧倒する成長を維持しており、直近のファッション・ビジネスニュースでも広く取り上げられています。
・売上高:前期比30.0%増の30億1400万スイスフラン(約6,069億円)。同社として初めて30億スイスフランの大台を突破。
・粗利益率:過去最高となる62.8%を記録。
Onの4つの特徴と強み
- 独自の製品テクノロジー: 空洞のある特徴的なソール構造「CloudTec®(クラウドテック)」を採用したランニングシューズが世界的な人気を博しています。 「Cloudstratus」「Cloudflow」「Cloud 5」などの代表シリーズがあります。
- ライフスタイルへの製品展開: ランニング用品だけでなく、アウトドア、日常使いのライフスタイル製品、アパレル、アクセサリーへと領域を拡大しています。
- デザインとサステナビリティ: 高い機能性に加え、スタイリッシュなデザインと環境配慮への取り組みが、ランナーだけでなくファッション業界からも支持を集めています。
- 多様性を重んじる企業文化: 「インクルーシブネス(包摂性)」を重視し、「5スピリッツ」(エクスプローラー、アスリート、ポジティブ、チーム、サバイバー)を行動指針としています。
Onは「Run on clouds(雲の上の走り)」をコンセプトに、快適な履き心地を追求し続けています。現在、日本を含むアジア市場を重要拠点と位置づけ、シューズに続く展開として、アパレルやアクセサリー分野の売上比率を中長期的に高めていく目標を掲げています。

目次
【課題】総合アパレルブランドへの拡大とコミュニティ構築の壁
Onのeコマースチームは、2018年にDynamic Yieldを早期導入して以来、COVID-19パンデミックやIPO、そして急激な売上拡大の裏側で、データ活用によるイノベーションを継続してきました。世界11地域で迅速にキャンペーンを展開し、コンバージョン率の最適化と収益向上においてすでに高い実績を上げていました。
しかし、Onのビジネス目標が「有名なエリートランニングシューズ」から「あらゆるアクティビティのための総合ライフスタイルアパレル」へと拡大したことに伴い、新たな課題に直面します。
具体的には、Webサイトとネイティブアプリを通じて「スポーツ愛好家やプロが集うコミュニティを構築すること」、さらに「シューズ以外の製品(アパレル・アクセサリー)の発見と認知を拡大すること」という2つの目標が掲げられていました。
Dynamic Yieldは、当社のWebおよびネイティブアプリの顧客体験(CX)のほぼすべての段階に統合されており、最先端の機能を提供しています。サーバーサイドへの移行後も高い俊敏性を維持しており、パーソナライゼーションによる変革的な成果が引き続き得られています。348倍という驚異的なROI(投資対効果)がそれを物語っています。
– レナ・ハウク氏(On デジタルパーソナライゼーションスペシャリスト)
【施策】Dynamic Yield「Experience OS」によるシステム基盤構築

Onが立ち上げた「24時間365日のデジタル旗艦店」であるWebウェブサイトが掲げる大きな目標は、ブランドのミッションでもある「動きを通じて人間の精神に火をつける(To ignite the human spirit through movement)」ことです。
これをデジタル上で体現するため、チームはDynamic Yieldの「Experience OS」を活用して戦略的な変革へと乗り出しました。これは、サイト上に新しいストーリーテリングの世界を導入し、商品の見せ方を劇的に向上させ、一人ひとりに合わせた的確なコンテンツを柔軟に届けることを目的としていました。
戦術的なアプローチとしては、靴以外の幅広い商品ラインナップをより効果的に紹介するために、サイト内での「商品の見つけやすさ」を多様化させ、高速にテストを繰り返すことを意味しました。
さらにチームは、これらの変更をその場限りのものにせず、将来のサイト改修や技術の進化にも柔軟に対応できるよう、
Dynamic Yieldを使って「裏側のシステム(サーバーサイド)」で完全に実行される一連のモジュール式コンポーネントとして実装しました。
この強固な土台を裏側で築いておいたことが、のちの大規模な地域最適化や、お客様一人ひとりに最適化された専用ページの生成、そして公式モバイルアプリの導入へと繋がる道を切り拓くことになります。
ここからは、Onの飛躍的なブランド成長においてパーソナライゼーションが「不可欠な成長エンジン」となった理由を、同社が実践した2つの主要なユースケースから紐解きます。
【施策1】商品メニューと詳細ページの「回遊・クロスセル」改善
課題:靴だけを買ってすぐに離脱してしまう
靴のレコメンデーションは高度に最適化されており、商品詳細ページ(PDP)に表示される推奨ウィジェットは、Onのオンライン収益の16%を一貫して生み出していました。
しかし、チームの具体的な目標は「靴以外の製品(アパレル・アクセサリー等)もサイト内で見つけてもらい、一緒に買ってもらうこと」でした。
導入した施策:メニューの並び替えと、詳細ページの表示切替
- 「目的別」メニューの併設でサイト内の回遊を促す: 従来の「女性向け」「男性向け」といった性別による分類に加え、「ロードランニング向け」「ハイキング・アウトドア向け」といったアクティビティ(目的)別のメニューをすぐ隣に並べるA/Bテストを実施しました。

- 靴のページであえて「靴以外」をおすすめする: これまでは靴の詳細ページには他の靴(人気商品など)をおすすめしていましたが、このエリアの表示を「アパレルやアクセサリーのみ」に切り替えるロジックを導入しました。

得られた成果:靴以外のアイテムへのクリック率が537.46%増加
- ウィンドウショッピングのような楽しさを提供: 目的別のメニューを置いたことで、訪問者がストーリー性のある特設ページ(そのアクティビティに最適な服や小物が美しくコーディネートされたページ)へ自然と進むようになりました。サイト内を楽しく回遊するユーザーが増え、Onが「総合アパレルブランド」であるという認知を広げることに成功しました。
- 圧倒的なついで買い(クロスセル)効果: 靴の詳細ページでアパレルを宣伝した結果、靴以外の製品へのクリック率が537.46%増加しました。これらの服や小物に興味を持ってクリックした顧客は、実際にライフスタイル製品を購入する確率が極めて高いことが実証され、ページを訪れた人の55%以上がこの「ついで買い」を利用する結果となりました。
サイト全体への「おすすめ戦略」の拡大
商品詳細ページ(PDP)でのこの成功を受けて、Onは靴以外の商品をおすすめする戦略を、より多くのサイトページへと拡大していきました。顧客がサイト内のどこで何を探しているかにかかわらず、常に多様な商品が自然と目に入る環境を整えたのです。
具体的には、ディープラーニングやハイブリッド戦略といった高度なAIおすすめロジックを組み合わせ、トップページ、靴の商品一覧ページ(PLP)、カートページに、お客様一人ひとりに合わせた商品レコメンデーションを配置しました。

【施策2】AIアルゴリズムによる購入促進と離脱防止
導入した施策:スマートなカートページ、検索「0件」対策、リアルタイムの天候連動
顧客の過去の行動データや、最先端のマシンラーニング(機械学習・ディープラーニング)を組み合わせることで、トップページからカートページ、検索画面に至るまで、お客様の「今の状況」に合わせたおもてなしの仕組みを配置しました。
1.カートページでの「ついで買い」自動分岐: お客様のこれまでの行動に合わせて、カートページを開いた際におすすめする商品を自動で切り替えるロジックを組み込みました。
- 過去に商品を2回以上見ている人には ➔ 「最近閲覧した商品」を表示。
- 初めてサイトに来て履歴がない人には ➔ 「今売れている人気商品」を表示。
- かごの中にすでに靴が1つ入っている人には ➔ 「一緒に購入されている商品」として、1番目立つ場所にアパレルを固定して表示。
- 靴以外のアイテムが入っている人には ➔ アクセサリーのみに絞り込んだ「一緒に購入されている商品」を表示。

2. 検索で商品がヒットしなかった(0件)ページの「離脱防止」:お客様がキーワードを入力した際に表示される「検索窓のポップアップ」の中に、あらかじめDynamic YieldのAIおすすめウィジェットを表示する工夫を施しました。
入力したキーワードに該当する商品が1件もなかった場合(0件ヒット)でも、そのままサイトから離脱してしまうのを防ぎます。お客様の過去の閲覧履歴に応じて「最近閲覧した商品」や「今売れている人気商品」を検索窓の中に表示することで、次の商品回遊へと自然に繋げました。

3. 今いる場所の「天候・位置情報」に合わせたリアルタイム提案:サイトを見ているお客様の地域の天候をリアルタイムに判別する実験を行いました。
例えば、いま雨が降っている地域のお客様がトップページを開くと、自動的にレインギア(雨天用ウェアやシューズ)のバナーやコンテンツが表示される仕組みです。

得られた成果:男性向け最適化でクリック率30%増、348倍のROIを達成
- 売上を牽引する最強のエリアへ: カートページでのおすすめ表示施策は、1クリックあたりの直接収益において、On全体のデジタル施策の中でトップの成果をあげる大ヒットとなりました。
- A/Bテスト検証による磨き上げ: おすすめ商品の性別絞り込み精度をA/Bテストで検証したところ、男性のお客様に対して男性向けの人気商品を閲覧履歴がない場合の代替表示として表示したバリエーションでは、クリック率が30%増加し、購入率も1.86%上昇しました。
- 天候連動バナーの確かな手応え: リアルタイムで雨が降っている地域のお客様に雨天用コンテンツを表示するバナーは、一律で同じバナーを見せるデフォルトの体験に比べて、クリック率に極めて高いエンゲージメントをもたらしました。
まとめ:Onの事例から学ぶパーソナライゼーション成功の3つのポイント
ここまで、OnがDynamic Yieldを活用して成し遂げた、先進的なデジタル旗艦店の改革について解説してきました。単なる「靴のブランド」から「総合ライフスタイルアパレルブランド」への脱皮に成功し、現在の売上高30億スイスフラン突破へと繋がった背景には、データ活用における明確な勝因があります。
Onの劇的な急成長とパーソナライゼーションの取り組みからは、現代のeコマースやCX改善において見習うべき、以下の3つの重要なポイントを学ぶことができます。
「ブランドの変革」に使う:パーソナライゼーションを「効率よく売るためのツール」としてではなく、「シューズブランドから総合アパレルブランドへ認知を広げる」「ファンコミュニティを育てる」という、会社の大きな経営目標を達成するためのコア戦略として位置づけていること。
「お客様の今の状況(データと文脈)」を掛け合わせる: 過去の閲覧履歴や購入データだけでなく、その人が「いまカートに何を入れているか」「いま検索で迷っているか」、さらには「いまいる場所の天気はどうか」というリアルタイムの状況を掛け合わせることで、ついで買いの確率を最大化させていること。
裏側のシステム(テクノロジー基盤)を整える: 最新のAIプラットフォームを導入し、Webサイトの裏側(サーバーサイド)で柔軟にコントロールできる体制を整えたこと。これにより、サイトの表示スピードを落とすことなく、高速なA/Bテストや他チャネルとのデータ連携を可能にしていること。
最先端のテクノロジーを導入するだけでなく、それをブランド自体の存在意義やユーザーコミュニティの拡大という「一歩先の未来」と結びつけたことこそが、Onの真の強みと言えます。自社のデジタルマーケティングやECサイトの競争力を高めるためにも、こうした顧客中心のデータ戦略をいち早く取り入れていくことが、これからの時代を生き抜くブランドにとっての大きな鍵となるでしょう。
テクノロジーを活用したCX改善・システム導入のご相談
Onの事例にあるように、AIやデジタル技術、パーソナライゼーション・プラットフォームを戦略的に組み込んでいくことが、最高売上を更新し続けるような爆発的なブランド成長を支える強固な土台となります。
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今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。
