DMMが語るABテスト実践の軌跡|導入1年で30-40%の成功率を実現、全社展開への挑戦|ABTasty活用事例
3,400万人以上のユーザーを抱えるPCゲームプラットフォーム『DMM GAMES』。約1年前にABテストツールをGoogleオプティマイズからABTastyに刷新してから、その取り組みは他事業にも展開されるなど着実な進化を遂げています。当初DMM GAMESの1事業部から始まった取り組みは、現在6事業部への展開が計画されており、DMM様では2月から11月までの間に52件のテストを実施し、30-40%という高い成功率を達成しています。
「デザインのABテストだけでなく、事業部間での事例共有や新機能の活用など、組織全体でのナレッジ活用を進めています」(開発統括本部 データ基盤開発部 萩原様)
2023年12月のツール導入インタビューから1年。今回は、実際にABテストを推進するキーパーソンに、具体的な成功のポイントと組織的な展開のプロセスについて話を伺いました。
そこから見えてきたのは、綿密な企画設計と効率的な実装プロセスを組み合わせた、持続可能なテスト体制の構築でした。
本記事では、DMMの1年間の実践から得られた具体的な知見と、組織全体でABテストを展開していくためのヒントをお伝えします。
目次
Googleオプティマイズ終了から1年 – DMMのABテスト進化の軌跡
DMMのABテストへの取り組みは、2023年9月のGoogleオプティマイズ終了をきっかけに、大きな転換期を迎えました。当時、すでに社内の複数事業部でABテストが活用され、特にDMM GAMESでは重要なマーケティングツールとして定着していました。
「Google オプティマイズが終わったら困るという声が社内から多く上がっていました」(2023年12月のインタビューより、開発統括本部 データ基盤開発部 藤井様)。当時の課題は、各事業部で独自にABテストツールを導入していた状態から、全社で統一したツールでテストを実施できる体制を整えることでした。
選定から運用開始まで
新ツールの選定にあたっては、以下の3つの要件が重視されました。
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- 特定パラメータでのテストコントロール機能
- データレイヤーの値を活用したパーソナライズ機能
- ノーコードでの実装が可能なこと
「エンジニアリソースを使わずに検証できることは重要なメリットでした」と、当時の選定理由を藤井様は説明しています。また、3,400万人以上のユーザーを抱えるサービスということで、コストパフォーマンスも重要な判断基準となりました。
1年間での成果
ツール導入から1年、その成果は数字となって表れています。
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- テスト実施件数:52件(2024年2月-11月)
- テスト成功率:30-40%
- 展開事業部数:6事業部まで拡大予定
特に注目すべきは30-40%という高い成功率です。一般的なABテストの成功率が10-15%程度とされる中、これは極めて高い数値といえます。
「企画の段階で、どれくらいインパクトがあるのかを私を含めて見ています」と語るのは、DMMGAMES(合同会社EXNOA)プロダクト本部 プロダクトグロース部の龍瀬様。「ABテストも結構ピンキリだとは思いますが、ちょっとした変更だと数字はなかなか動かなかったりするので、企画段階でどこの数字がどれくらい動くのかっていうのは仮説として担当者に考えさせるようにしています」
このように、事前の仮説設定と効果予測を重視する姿勢が、高い成功率につながっていると考えられます。
事業部横断での運用体制の確立
DMMでは、ABテストツールの全社展開にあたり、効率的な運用体制の構築を進めています。開発統括本部 データ基盤開発部が中心となり、ナレッジの共有やFAQの拡充、新機能の事例共有など、基盤となる部分の開発を担当。各事業部間の連携強化に取り組んでいます。
効率的な導入プロセスの確立
「利用事業部がABTastyを使用する際の申請手続きを見直しました」と語るのは、開発統括本部 データ基盤開発部の萩原様。「これまでGA(Google Analytics)、GTM(Google Tag Manager)、ABTastyと個別に申請が必要だった手続きを、一つの申請で完結できる仕組みを整備しました」
この取り組みにより、新規事業部の参入障壁を下げることに成功。現在では6事業部まで利用希望が集まり、様々なサービスでの活用が計画されています。
事業部間の連携強化
現在、特に注力しているのが事業部間でのナレッジ共有です。
「社内でコミュニティを作り、各事業部の事例を共有する取り組みを始めようとしています」(開発統括本部 データ基盤開発部 萩原様)
具体的には:
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- Slackチャンネルを活用した情報共有
- 社内ナレッジ管理ツールでの事例集約
- 事業部間での意見交換の促進
実装フローの最適化
一方で、事業部ごとに異なる実装フローの最適化も課題となっています。
「事業部によってかなり異なっているんですけど、例えばプレミアム事業部の場合、施策計画の段階からかなりステップがあります」(開発統括本部 データ基盤開発部 萩原様)。
企画から実装までのプロセスには、以下のようなステップが存在します。
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- マーケティング担当者による計画企画・提案
- 上長承認
- ABテスト担当者への展開
- 実装部門担当者による実装・検証
- ABテスト担当者による承認
- テスト検証から本番実施
特にSPA(シングルページアプリケーション)のページでは、シンプルなコード変更であっても実装に2-3週間程度かかることもあり、この期間短縮が今後の課題となっています。
新規事業部向けサポートの強化
「新規導入した事業部では、使い方がわからないという声も多い」と萩原様は指摘します。この課題に対し、以下のような取り組みを計画しています。
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- 新規事業部向けの導入支援体制の整備
- 基本的な使い方のドキュメント整備
- 実装に関する相談窓口の設置
DMMの実践事例から見るABテスト成功のポイント
DMM様では2024年2月から11月までの間に、プラットフォーム事業部で22件、DMM GAMESで30件、合計52件のABテストを実施。その中から、具体的な成功事例と知見をご紹介します。
デバイス特性を考慮したUI/UX最適化
「スマートフォンの事例なんですけど、Gamesの場合はスマートフォンのブラウザページと、Androidアプリのページ、二つあって、それぞれトップページに同じコンテンツを並べているんですけど、デザインの差分があったりします」(DMM GAMES 龍瀬様)
特に印象的だった検証では、人気ランキングの表示方法に関するテストを実施。アプリ版では横スワイプでの表示がCTR(クリック率)の大幅な向上につながりました。しかし、同じ改善をスマートフォンブラウザ版に適用したところ、逆にCTRが低下する結果となりました。
この事例から得られた重要な知見:
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- 同じスマートフォンでも、アプリとブラウザでは最適なUIが異なる
- スマートフォンブラウザでの横スワイプはユーザーにとって直感的でない可能性
- 成功した施策でも、環境が変われば効果が逆転する可能性がある
ゲームキャラクターの効果的な訴求方法
デジタルマーケティング部門での広告施策において、キャラクター表示に関する重要な発見がありました。
「特定のタイトルでたくさんキャラクターを出すという訴求と、人気の1キャラだけ出すという二つでやった場合、人気の1キャラの方がコンバージョンレートというかユーザーの獲得率が高かった」
このテスト結果を受けて:
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- プラットフォーム側への横展開を検討
- 他タイトルでの検証も計画
- 新規タイトルのプロモーション戦略への反映を検討
企画段階での効果予測の重要性
高い成功率の背景には、企画段階での綿密な効果予測があります。
例えば:
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- ボタンの色変更など小規模な変更は、実施前に効果を見極め
- UXに大きく影響する導線は、慎重に検証を実施
- 文言の微細な変更は、ブランディングの観点から即時反映を判断
「文言の微妙な変化や、見出しの文言を変えることでCTRが変わる事例もあるんですが、些細な表現変更だけだと、なかなか影響がない場合もあるため、施策の実施については割とシビアに判断しています」
今後の展望と課題 – さらなる活用拡大に向けて
今後の展開について、DMM様では「社内での活用をさらに広げていきたい」という方向性を示しています。その実現に向けて、ツールの改善要望や組織的な取り組みが計画されています。
組織展開における今後の取り組み
新規事業部への展開を見据え、以下の取り組みを計画しています:
- 社内コミュニティの形成
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- Slackチャンネルを活用した情報共有
- 事業部間での事例共有の促進
- ナレッジの集約と活用
- イベントを通じた交流
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- 他社のマーケターとの交流機会の創出
- 事例共有を通じた相互学習
- サポート体制の強化
「ギャプライズさんには新規利用事業部向けの導入フォローをしていただけるとすごく助かるなと思っております」(開発統括本部 データ基盤開発部 萩原様)
実装フローの効率化に向けて
現状の課題として、特にプレミアム事業部などでは承認から実装まで2-3週間程度かかるケースもあり、この期間短縮が検討されています。
「整備をもっとやって気楽にできるような」体制作りを目指し、以下の取り組みを進めています
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- 承認フローの簡素化検討
- 実装手順の標準化
- 各事業部の特性に応じた運用ガイドラインの整備
今後も継続的な改善と発展が期待される中、DMM様のABテストへの取り組みは、マーケティング施策の効果検証における新たなスタンダードを示唆しているといえます。
組織的なABテスト展開に向けて
DMM様のこの1年間の取り組みから、組織的なABテスト展開における重要なポイントが見えてきました。
成果を支える3つの要素
- 綿密な企画設計
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- 事前の効果予測を重視
- インパクトの大きさを判断基準に
- 事業KPIとの紐付け
- 効率的な実装プロセス
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- 申請手続きの一元化
- 標準的な実装フローの整備
- 各事業部の特性に応じた柔軟な対応
- ナレッジの共有と活用
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- 事業部間での成功事例の共有
- 社内コミュニティの形成
- 新規参入事業部へのサポート体制
実装期間の短縮や、事業部間での知見共有など、まだ取り組むべき課題は残されています。しかし、30-40%という高い成功率からも分かるように、綿密な準備と効果的な実行体制があれば、ABテストは確実に成果を生み出すツールとなり得ます。
DMM様の取り組みは、組織全体でABテストを展開していく上での、重要なヒントを私たちに提示しているのではないでしょうか。
ギャプライズ担当者の声
昨年度(2023年)は、ABTasty利用企業の中でもウィジェットの活用数において上位に位置するなど、非常に積極的にご活用いただいており、大変嬉しく思っております。
また、活用いただいているからこそ、具体的な機能リクエストを多数頂戴し、特に複数部署でのご利用を考慮したリクエストは、非常に貴重なご意見として受け止めています。
今後、さらに利用部署が増える見込みと伺っておりますので、多くの利用者を抱える企業様の効率的な運用を支援できるよう、新規利用部署の導入サポートやさらなる活用に向けた支援を行ってまいります。
ご協力ありがとうございました!
聞き手:佐藤・今本
今本 たかひろ/MarTechLab編集長
料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。