ANA Xが取り組んだ、ユーザー視点に立ち返るUI/UX改善ワークショップ開催事例
同じサービスを長く担当するほど、最初は気づいていた小さな違和感も、いつのまにか見えなくなり、提供するサービス側の視点が強くなってしまう……。サイト改善に携わる方なら、一度は心当たりがあるのではないでしょうか。
ANAグループの公式Webサイトの顧客体験向上を担う ANA X株式会社のデジタルマーケティング部は、原点である「ユーザー視点」に立ち返るために、ギャプライズと UI/UX改善ワークショップに取り組みました。
テーマは「データを見る前に、まずはユーザー視点に立ち返り、仮説を立てる」こと。
ワークショップ後のアンケートでは、満足度は平均4.3点(5点満点)、参加者から「学んだ視点を自分の担当領域で生かしたい」という声が寄せられました。
本記事では、開催に至った背景と、当日のワークの様子、参加者の気づき、そして生まれた変化についてお伺いしました。
目次
ワークショップ概要とメンバー紹介
改善の仮説を立てる力を養う設計
UI/UX改善ワークショップは、データ分析に入る前に一般ユーザーの視点に立ち返り、サイト改善の仮説を立てる力を養うための取り組みです。
今回のワークショップは、UI/UX改善を支援するギャプライズが、ANA X のデジタルマーケティング部向けに設計・実施しました。
テーマ:
データを見る前に、まずはユーザー視点に立ち返り、仮説を立てる
全体の流れ:
- 身近なサイトを題材に、ユーザーが感じる「違和感」を洗い出す
- その視点を自社サイトに展開し、離脱が起きるポイントを探る
- 「なぜそう感じるのか」からユーザーの心理・行動まで深掘りする
参加者アンケートの結果:
- 満足度:平均4.3/5点満点(4点以上が9割超)
- 「担当領域で活用できる一般ユーザー視点は学べましたか?」:回答者全員が「はい」
ワークショップ参加メンバー紹介
マネジメント/推進側の2名と、現場で実践するメンバー3名の計5名にお話を伺いました。
【マネジメント・推進:デジタルマーケティング部】

宮本様:ANA公式サイト内の国内線・国際線・ANAマイレージクラブ会員サービスなど各領域を横断し、コンテンツ制作と最適化を統括。

南雲様:サイトマネジメント担当。IT部門と営業部門の間に立つ「橋渡し役」として両者をつなぎ、ツール活用・AI活用の推進を担う。
【ワークショップ参加メンバー:デジタルマーケティング部 コンテンツマーケティングチーム】

坂口様:ANA公式サイトの国際線航空券を中心にコンテンツの企画・改善を担当。

吉田様:ANA公式サイトの国内旅行を中心に、航空券+宿泊やホテルキャンペーンのコンテンツ企画・改善を担当。

末永様:海外在住者向けのワールドワイドサイトや、国際線の予約フロー(ブッキングエンジン)まわりのコンテンツを担当。
ANA Xが抱えていた課題とワークショップ実施の背景
作り手の視点から、ユーザー視点へ
まず、ワークショップ実施の背景について、チームを率いる宮本様に伺いました。
宮本様:「正直なところ、コンテンツに日々向き合っていると、どうしても作り手の目線になりがちです。気づけば、自分たちの視点でしか改善を考えられなくなってしまいます。
サイトは本来お客様が使うものなのに、『そのお客様とは、どんな人なのか』という肝心の問いが置き去りになっていく感覚がありました。
だからこそ、一度立ち止まってユーザーの目線を取り戻す時間が必要だと感じていました。
『データを見る前に、まずユーザー視点に立ち返り、仮説を立てる』というアプローチを聞いたとき、まさにこれだ、と。私たちに足りていなかったのは、その“立ち返る”プロセスそのものでした。」
自社サイトをユーザー視点で見直すワーク
ユーザー視点に立ち返る「3つのステップ」
「お客様の気持ちになる」と言われても、長く担当しているほど、それは難しいものです。そこでギャプライズは、誰でも再現できる手順として整理しました。
最初のステップは、担当者が陥りがちな“3つの思い込み”を自覚することです。
【担当者が陥りがちな3つの思い込み】
慣れ:毎日見るうちに、使いにくさにも脳が慣れてしまう
立場のバイアス:「システム上こうなっている」「別部署の管轄だから」と、事情を先に考えてしまう
データ偏重:数字(結果)ばかりを見て、理由(原因)への想像が止まる
この3つを一度脇に置き、専門知識を捨てて“初めて訪れた人”になりきります。
具体的には、年齢・目的・状況・気持ちまで決めた一人のユーザー像(ペルソナ)を設定し、その人を自分に重ねていきます。
その上で、見つけた引っかかりを次の3ステップで言葉にしていきます。
1. 違和感に気づく:
そのユーザーになりきってページを実際に触り、「ん?なんで?」と感じた瞬間をすべて書き出す。理由や良し悪しの判断は後回しにして、一瞬の感情を拾うのがコツです。
2. 心理を言語化する:
その違和感を覚えたとき、ユーザーは何を思うのか。「面倒くさい」「自分には関係なさそう」「ちょっと不安」など、感情・迷い・不信を言葉にします。
3. 行動を予測する:
その結果、ユーザーはどう動くのか。「読まずにスクロールする」「詳細を見ずに離脱する」など、具体的な行動まで踏み込みます。

そしてポイントは、いきなり自社サイトで実践しないこと。
担当しているサイトほど“担当者の目”が抜けにくいため、まずはまったく関係のない、身近なサイトで3ステップを練習してピュアなユーザー感覚を呼び戻し、それから自社サイトに臨みました。

ここからは、その実際の様子を見ていきます。
身近なサイトで「違和感」を言語化する
では、実際にやってみるとどうだったのか。まずは練習として取り組んだ、身近なBtoC向けサイトでのワークから振り返ります。

最初のワークについて、参加した坂口様は強い印象を受けたといいます。
坂口様:「あるサービスを使ってみたのですが、注文ボタンを押した瞬間に、いきなり郵便番号の入力を求められ、手が止まりました。
普段の生活なら『使いにくいな』と違和感を覚えたら、そのまま離脱して終わってしまうところです。
でも今回は、『ここが違和感だ』と一つひとつ立ち止まって確認できた。これは自分たちのサイトでもやってはいけないことだな、と大きな学びになりました。」
普段は意識にすら上らない離脱の瞬間も、ステップに分けて観察することで、「なぜ離脱されるのか」を初めて明確に捉えられるようになります。
吉田様も、同じワークから連続する離脱ポイントの存在に気づいたと語ります。
吉田様:「最初の画面だけではなく、その先のページでもメニューが見づらかったりして、離脱しそうなポイントがいくつも続いていました。
少しの違和感でもユーザーはすぐ離れてしまうんだ、と実感しました。」
末永様は、ユーザー視点を「ステップを踏んで」考えることの大切さを、あらためて実感したと振り返ります。
末永様:「ユーザーの立場で考えることは以前から意識していましたが、こうして順を追ってプロセスを踏んでいくことが大事なんだ、と再認識しました。忙しい毎日の中では、なかなかここまで時間をかけてできていなかった部分でした。」
身近な題材から自社サイトへと段階を踏むことで、お客様の目でサイトを見る感覚が自分の中で整理されていった──。参加者からは、そんな確かな手応えが語られました。
自社サイトで実践してみる
練習で感覚を取り戻したら、いよいよ本番です。
同じ3ステップで、普段は見慣れた自社サイトを「初めて訪れたユーザー」の目で見直していきます。
坂口様:「身近なサービスの例から、少しずつ自分たちの業務に近いものへとステップアップしていく構成だったので、すごくイメージしやすかったです。
実際に自社サイトをやってみると、頭の中がどんどん整理されてきました。
『お客様はこういうところに違和感を持つよね』という見方や、その見つけ方を学べたのは、とても有意義でした。」
吉田様:「一つのページを、あれだけの人数で見てもらう機会は普段ありません。改めてユーザー視点で見ると、『確かにこう思うよね』という指摘がいくつも出てきて。チームの中だけでは気づけなかったことばかりで、とても参考になりました。」
ユーザー心理と行動の深掘り
ここで活きてくるのが、はじめに紹介した「違和感→心理→行動」の3ステップです。
後半のワークでは、見つけた違和感を「なぜ起きるのか」「ユーザーはそれをどう感じ、次にどう行動するのか」まで深く分析しました。
坂口様:「単に『見づらい』で止めるのではなく、その先まで考えるようになりました。見づらいと感じたお客様は、どう思うのか。離脱してしまうのか、それとも別のページに移るのか。そこまでユーザー心理を追いかける視点は、これまで持てていなかったところです。」
第三者のファシリテーションが、『発言しやすい場』をつくる
一連のワークを通じて、参加者があらためて実感したのが「ワークショップという形式」、そして「社外のUI/UX専門家であるギャプライズが間に入る」メリット でした。
普段、自社のサイトを見て小さな違和感を覚えても、作り手であるがゆえに「きっとシステムや裏側の事情があるんだろうな」と背景まで想像できてしまう。だからこそ、かえって意見として口に出しづらい場面があります。
今回は、ギャプライズがANA Xの組織体制・課題・日々の業務状況を事前にヒアリングし、それに合わせてプログラムを完全にカスタマイズして設計していました。
企業の状況に合わせたプログラムと、第三者による客観的なファシリテーションという「フラットな場」があったからこそ、立場や前提を一度脇に置いて、「違和感をそのまま率直に発言することができた」といいます。
▼ワークショップ開催時の様子

「届けたい情報」と「ほしい情報」のジレンマ、立場を超えて視点をそろえる
ユーザー視点で自社サイトを見つめ直すと、多くの企業に共通する、ある構造的なテーマも見えてきました。
サービスをつくる「事業部側」と、それをサイト上でユーザーに届ける「コンテンツ側」。どちらも「サイトを良くしたい」という思いは同じでありながら、立場が違えば見えている景色も少しずつ変わってきます。
たとえば、事業部から寄せられる依頼には、自分たちのサービスやプロダクトへの強い思いが込められています。「これを伝えたい」「ここも載せたい」、その熱量ゆえに、伝えたい情報や文字量が増えていくこともあります。
一方、コンテンツ側は「ユーザーにとって分かりやすいか」を起点に考えます。事業として届けたい情報と、ユーザーが本当に求めている情報。この二つをどう両立させるかは、関わる人や部門が多い大きな組織であればこそ、誰もが向き合うことになる普遍的な問いと言えます。
加えて、ANA Xでは複数の部門やオーナーシップにまたがるサイトもあるため、一つの改善を進めるにも丁寧な調整が欠かせません。
大切なのは、どちらの立場が正しいかを決めることではなく、立場の異なるメンバーが「同じ目線」を持てるかどうかです。
ユーザー視点を共通言語にすることで、事業部とコンテンツ側が同じ方向を向いて議論できるようになります。
ANA X のデジタルマーケティング部は、この構造を捉えたうえで、依頼を受け身でこなすのではなく、ユーザーの視点を起点に能動的にサイトを良くしていこうとしています。今回のワークショップは、その確かな手がかりになっていました。
ワークショップ後、チームに生まれた変化
感覚を「ロジック」に変え、データを活かすチームへ
ワークショップのあと、メンバーの様子や言葉にどのような変化があったのか。宮本様と南雲様にお伺いしました。
宮本様:「以前は、コンテンツのフィードバックも『見づらいよね』『分かりづらいよね』という個人の感覚に近い会話になりがちでした。それがワークショップ以降は、『なぜ見づらいのか』『ユーザーがどう動くから分かりづらいのか』まで、論理立てて話すメンバーが出てきたのが大きな変化でした。」
南雲様:「ユーザー視点に立ち返ったことで、その後のデータ分析や数字の検証にも深みが出てきました。これまでの慣れや固定観念が、少しずつ変わっていく感覚があります。」
「考え方そのものが変わった」それが、このワークショップがもたらした最大の成果です。
アンケートの自由記述にも、視点の変化をうかがわせる言葉が並びました。
● 「ユーザー目線は絶対に忘れてはいけないものですが、どうしても後回しになりがちでした。今回学んだプロセスを生かし、これからのコンテンツづくりにつなげたいと思います。」
● 「日々の業務に流されて、ユーザー目線で感じた違和感を言語化し、改善につなげる意識をなかなか持てずにいました。学んだことを意識して、自分の仕事に落とし込んでいきたいです。」
● 「身近な BtoC 向けサイトを実際に使ってみると、違和感や気になる点がいくつもありました。自分の中にある“普段の当たり前”を基準にしていたと気づき、客観的な UI/UX をきちんと学ぶ必要性を感じました。」
▼ワークショップへご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
今後の展望とギャプライズへの期待
ワークショップの対象者を拡大し、共通の視点をもつ
今後の展望について、南雲様は次のように語ります。
南雲様:「まずは、このワークショップの輪をもっと広げたいですね。
コンテンツ担当以外の幅広い職種の方々にも一度参加してもらえたら、よりユーザー視点に立ったページを最初から一緒に作れるはずです。
立場の違うメンバーが同じベースラインに立てれば、改善の質も劇的に変わってくると思います。」
実際、アンケートでも「事業部を巻き込んだワークショップをやりたい」という声が複数寄せられていました。
次のステップ:改善を前に進める「エビデンス」と「専門家の知見」
さらに現場のメンバーからは、ワークショップで得た視点を組織内でさらに説得力のあるものにするために、今後は「エビデンス(裏付け)」を強化していきたいという声が挙がっています。
坂口様:「たとえば『スマホで一つのサービス説明を理解できる最適な文字量はどのくらいか』といった汎用的な裏づけやデータがあれば、事業部へ文字量を抑える提案をする際にも、よりスムーズに通しやすくなると感じています。」
吉田様:「各ステップで『ここで離脱を防ぐにはどんな情報が必要か』が分かるチェックポイントやフレームワークがあると、日々の改善の強い指針になりますね。」
これまでの「感覚」をロジックに変え、データで補強していく方向性について、南雲様はこう続けます。
南雲様:「根拠を出すところまではチームでもできるようになってきました。次は、その数字やデータを持って『相手の心を動かす』、提案の伝え方や資料のつくり方といったアウトプットのスキルを、チームとしてさらに引き上げていきたいですね。」
こうした現場やチームの成長、そして今後の外部パートナーへの期待について、最後に宮本様にまとめていただきました。
宮本様:「メンバーの言葉からも分かるように、ユーザー視点に立ち返る土台はできてきました。ただ、チームだけの視点では限界があります。
だからこそ、ギャプライズさんにはUI/UXの専門家として、継続的なワークショップのご提案に加え、私たちのコンテンツに対して『ここに改善のポイントがある』といった具体的なアドバイスをぜひいただきたいですね。
専門家の客観的な視点でストレートにアドバイスをいただけると、弊社としては非常に助かりますし、これからも一緒にサイトを良くしていければと思っています。」
まとめ
同じサービスを長く担当するほど作り手の視点に偏り、初期の新鮮な違和感は見えなくなるものです。それは、実務に真剣に向き合っているからこそ起こる自然な現象と言えます。
だからこそ、意識的に立ち止まり、ユーザー視点に立ち返る場が欠かせません。立場や役割を脇に置き、覚えた違和感を安心して口に出せる「フラットな場」を作ること。それが、「感覚」を「ロジック」へと変え、サイト改善を前へ進める確かな一歩になります。
「自社サイトのUI/UXをどこから改善すべきか分からない」「ユーザー視点を起点に、成果につながる改善を進めたい」といった課題をお持ちでしたら、まずは現在の状況をご相談ください。
ワークショップの設計から具体的なUI/UX改善の実行まで、伴走するパートナーとして最適なアプローチを一緒に考えてまいります。
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勝見 理恵
2012年ギャプライズ入社。リスティング広告/SNS広告など活用したWeb集客支援、ContentsquareやABテストツールのカスタマーサクセスを経て、現在は自社マーケティングを担当。