ECサイトを“コーポレートビジョンを体現する顧客接点”へ! ~キューサイのContentsquareを活用したCX改善の舞台裏~

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2025/04/18

※本記事は2025年3月27日にContentsqare社主催のイベントのセッションをレポート記事化したものです

業界背景と事例の重要性

近年、多くの企業がECサイトを重要な顧客接点と位置づけ、売上向上だけでなく、顧客体験(CX)の改善に注力しています。しかし、実際のところ、ウェブサイト上での顧客行動を正確に把握し、的確な改善につなげることは容易ではありません。アクセス解析ツールから得られるデータは「何が起きたか」を教えてくれても、「なぜそれが起きたのか」までは教えてくれないからです。

ECサイトの運営者なら誰もが、次のような課題に直面したことがあるのではないでしょうか。

    • 商品ページからカートへの遷移率が低い理由がわからない
    • 顧客がフォーム入力を途中で諦めてしまう原因が特定できない
    • 改善施策の効果を適切に測定する方法がない

こうした課題に対して、ユーザーの行動をより深く理解し、具体的な改善につなげた事例として注目されているのが、キューサイ株式会社の取り組みです。

今回のセミナーレポートでは、ウェルエイジング関連商品を扱うキューサイ株式会社が、どのようにしてECサイトをコーポレートビジョンを体現する顧客接点へと進化させたのか、その舞台裏に迫ります。特に、行動分析ツール「Contentsquare」を活用した具体的な分析手法と、組織的な運用体制の構築について詳しく見ていきましょう。

この事例は、単なるツール導入の成功事例ではなく、企業のビジョンとECサイトの顧客体験をいかに結びつけるかという、より本質的な挑戦の物語でもあります。

セミナー概要と登壇者紹介

本セミナーは、「ECサイトをコーポレートビジョンを体現する顧客接点へ! キューサイの取り組みの舞台裏」と題して行われました。登壇者は、キューサイ株式会社のCX Commerce Design部 岩﨑暖氏と、株式会社ギャプライズのCXO事業部カスタマーサクセスグループ マネージャーの伊藤です。

岩﨑氏は2018年にキューサイ株式会社に入社し、2020年からデジタル企画課(現CXCD部)に所属。既存顧客向けセールスプロモーション等の担当を経て、Contentsquareをはじめとしたツールを用いたサイト分析、WEB接客、LINE公式アカウント運用などを中心に、CX/UXの向上に日々取り組んでいます。

伊藤はデジタルマーケティング営業を7年勤めた後、2021年にギャプライズへ入社。月間数百万PVのウェブサイト・アプリのUI/UX分析サポートを主体とし、年間100本以上のABテスト提案とレビューを行っています。キューサイ様のカスタマーサクセスを担当して3年目となります。

今回のセミナーでは、キューサイ株式会社がContentsquareを導入し、ECサイトの顧客体験を向上させるために行った分析や改善事例、さらには組織への定着化の取り組みについて紹介されました。

 

キューサイ株式会社とウェルエイジングビジョン

キューサイ株式会社は、1965年10月に創業し、福岡県福岡市中央区薬院に本社を置く企業です。ウェルエイジング商品の開発・販売を主な事業内容とし、2024年12月期の売上高はキューサイグループ連結で255億95百万円に達しています。

同社は「Q’SAIはウェルエイジングNo,1企業へ」というビジョンを掲げています。これは”年齢を重ねることを前向きにとらえ、こころ豊かに生きる”を支えるという企業理念に基づいています。

岩﨑氏は「アンチエイジングとは違い、単に若くあり続けるだけではなく、心身ともに豊かに年齢を重ねていくことを支援したい」という思いを語りました。キューサイ株式会社は、「心身のウェルエイジングを発展・普及させ、人々が前向きに歳を重ねられる世界を実現する」という企業理念のもと、「お客さまをファンに」、「ウェルエイジング No.1企業に」 「最先端を取り込む」という3つの目標(ビジョン)を掲げています。

この企業理念を実現するために、同社ではCX Commerce Designという取り組みを展開しています。この取り組みでは、「加齢、生活習慣に対する気づき」「ウェルエイジングを体現する品揃え」「多様な接点/チャネル利便性」「個に向き合うパーソナライズ」「繋がるコミュニケーション」「新たな自分だけのウェルエイジング体験」といった要素を組み合わせることで、ユーザーにとって価値あるウェルエイジング顧客体験を提供することを目指しています。

岩﨑氏は、「ECサイトはこれらすべての体験領域が関わってくる重要な接点であり、ECの成長と拡張は弊社のコーポレートビジョンを実現する上で大きな位置を占めています」と強調しました。

 

キューサイが抱えていた課題

ECサイトを通じた体験は、顧客の行動に大きな影響を与えます。岩﨑氏は体験を「Good(良い)体験」と「Bad(悪い)体験」に分類し、Good体験を提供できれば顧客は継続的に訪問してくれる一方、Bad体験をさせてしまうと離脱につながると説明しました。

「問題は、このBadな体験がどこに潜んでいるのかを特定することです」と岩﨑氏は言います。

キューサイ株式会社では、2023年4月にサイトリニューアルを実施した際、より良いサイトにするために顧客行動の詳細な分析が必要となりました。しかし、従来使用していたGoogle AnalyticsやBIツールなどの解析ツールでは、次のような課題がありました。

  1. 解析ツールのデータでは原因特定ができない
  2. 改善根拠が弱い
  3. 改善案のインパクトがわからない

これらの課題を解決するため、同社はContentsquareの導入を決断しました。導入の具体的な理由として、岩﨑氏は次の5点を挙げています。

    1. GA4などでは見つけられない課題がある
    2. より具体的な課題の抽出が難しい
    3. 課題発生源の特定(推定)が難しい
    4. 改善仮説の精度を上げたい
    5. 改善施策の定量的検証をしたい

 

CX改善の具体的な分析アプローチ

キューサイ株式会社は、Contentsquareを導入することで顧客体験の可視化に取り組みました。最初のアプローチとして、サイト内の顧客の動き(遷移)を可視化し、Good/Badな体験の発生地点を遷移率という定量情報で把握することから始めました。

具体的には、TOPページからMyPage、Category、Campaign、Product、Cartなど、各ページ間の遷移を図化して観測しました。これにより、どのページ間の遷移でつまずきが発生しているのかを可視化することができました。

特に注目したのがカート導線です。キューサイでは、カートから注文手続きへの遷移率を定点観測していました。観測データを見ると、カートから注文手続きへの遷移率が安定せず、上昇と下降を繰り返していることが判明しました。「なぜこの遷移率が安定しないのか」という疑問が浮かび上がりました。

こうした変動が顧客のBadな体験、すなわち改善すべき課題を示していると考え、さらに詳細な分析を進めることにしました。

Contentsquareでの分析手順

キューサイでは、Contentsquareを活用して以下の5ステップで分析を進めました。

    1. ジャーニー分析:ユーザーの意図しないページ遷移を確認
    2. インサイト分析:ユーザーのフラストレーションを調査
    3. ゾーニング分析:ページ内のユーザー行動を可視化
    4. セッションリプレイ:ユーザー行動の解像度を上げる
    5. 施策実行・効果検証:施策結果をContentsquareでも効果検証

1のジャーニー分析で最初に大きく概要を掴み、2のインサイト分析で要因となる行動に当たりをつけ、3のゾーニング分析で要因を数値により可視化、4のセッションリプレイで実際の行動から解像度を上げて、5の施策実行・効果検証で施策結果を分析するという流れです」と説明しました。

ステップ1:ジャーニー分析

ジャーニー分析では、ユーザーがサイト内でどのようにページ間を移動しているかを可視化します。中心の円がスタート地点となるページで、外側に向かってユーザーの遷移先が表示されます。

岩﨑氏はこの分析で以下の3つの特徴的なパターンを発見しました。

A. カートページをループしている(同じカートページに何度も戻っている)
B. カートページからの直接離脱
C. カートページからログインページ・会員登録ページへの遷移

特にAの「カートページをループしている」というパターンは、ユーザーが望んでいない遷移であり、フラストレーションが発生している可能性が高いと考えられました。

問題の特定とUI改善

ステップ2:インサイト分析

次に、カートページをループしているユーザーをセグメント化し、そのユーザーのフラストレーションを調査しました。Contentsquareのインサイト分析機能では、ユーザーのフラストレーションをスコア化し、どのような行動がフラストレーションの原因になっているかを特定できます。

分析の結果、カートページでは「レイジクリック」と呼ばれるフラストレーション行動が多く発生していることが分かりました。レイジクリックとは、2秒以内に同じ要素を3回以上クリックする行動で、ユーザーがイライラしている証拠です。

ステップ3:ゾーニング分析

レイジクリックが発生している具体的な場所を特定するため、ゾーニング分析を実施しました。この分析では、クリック率、スクロール率、クリック秒数、閲覧秒数、再タップ数などの指標を可視化できます。

分析の結果、ある見出し部分の再タップ数が周辺要素と比べて3.29倍も多いことが判明しました。この見出しはボタンではなかったものの、ユーザーはボタンと誤認して何度もクリックしていたのです。

ステップ4:セッションリプレイ

さらに、実際のユーザー行動を確認するためにセッションリプレイを分析しました。これにより、ユーザーが「インターネット会員のお客さま」という見出しを何度もクリックしている様子が確認できました。ユーザーはこの部分をログインボタンと誤認し、反応がないことにフラストレーションを感じていたのです。

ステップ5:改善施策の実行と検証

問題の原因が特定できたため、キューサイでは「ボタン的印象をなくしたUIへ変更」という改善施策を実施しました。具体的には、誤ってクリックされていた見出しの背景色を変更し、ボタンのような見た目を排除しました。

施策実施後の効果を測定したところ、誤タップが約1/10に減少するという成果が得られました。タップ率は2.07%から0.21%へタップ数は78回から7回へと大幅に減少しました。

これにより、カートから注文手続きへの遷移率が改善され、さらには注文手続きから注文完了への遷移率も向上するという副次的効果も得られました。

 

Contentsquareによる分析の価値

Contentsquareでの詳細分析を通じて、キューサイ株式会社は以下の成果を得ることができました:

  1. GA4などでは見つけられない課題が発見できた
  2. より具体的な課題の内容が確認できた
  3. 課題の発生源が特定できた
  4. 定量的根拠を伴った仮説を立てることができた
  5. 仮説を基に行った施策の定量的検証ができた

岩﨑氏は「単にUI/UXを改善するだけでなく、その効果を定量的に測定し、施策の正当性を証明できたことが大きな成果でした」と振り返りました。

 

ECサイトを”コーポレートビジョンを体現する顧客接点”へ

キューサイ株式会社の取り組みから、ECサイトを真の顧客接点として機能させるために重要なポイントが見えてきました。

見えない課題を可視化する重要性

従来のアクセス解析ツールでは見えなかった顧客の真のフラストレーションポイントを、Contentsquareのような行動分析ツールを活用して可視化することで、具体的な改善につなげることができました。カートページでの単純なUI改善が、購入プロセス全体の遷移率向上に寄与したように、小さな改善が大きな効果をもたらすことがあります。

定量データに基づく仮説と検証の循環

「なぜユーザーがこの行動をとるのか」という問いに対して、感覚や経験ではなく、定量的なデータを基に仮説を立て、検証するサイクルを回すことの重要性が示されました。岩﨑氏が語るように「改善に終わりはない」のであり、継続的な分析と改善が必要です。

コーポレートビジョンとの一貫性

キューサイ株式会社の事例で特に注目すべきは、ECサイトの改善をコーポレートビジョンである、ウェルエイジング(年齢を前向きにとらえ、こころ豊かに生きること)を支えることと一貫させた点です。単なる売上向上のためのUI改善ではなく、顧客がウェルエイジング体験をより良く享受できるための接点としてECサイトを位置づけています。

他社が学べるポイント

本事例から他社が学べるポイントとしては、以下の点が挙げられます。

  1. ユーザー体験におけるフラストレーションポイントを特定するための適切なツールの選定
  2. Good/Bad体験を定量的に評価する指標の設定
  3. 仮説の精度を高めるための多角的な分析アプローチ
  4. 小さな改善から始め、効果を測定しながら段階的に進める姿勢

今回紹介したキューサイ株式会社の事例は、ECサイトが単なる販売チャネルではなく、企業のビジョンを体現する重要な顧客接点であることを改めて示すものでした。販売効率や売上の向上だけでなく、顧客にとって真に価値ある体験を提供することが、結果として長期的なビジネス成長にもつながるのです。

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今本 たかひろ/MarTechLab編集長

料理人→旅人→店舗ビジネスオーナー→BPO企業にてBtoBマーケティング支援チームのPLを4年半経験し、2023年2月よりギャプライズへジョイン。フグを捌くのもBtoBマーケティングを整えるのも根本は同じだという思考回路のため、根っこは料理人のままです。家では猫2匹の下僕。虎党でビール党。

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